大手自動車メーカーで研究職をしている3歳上の夫と、広告代理店でプランナーをしている私。
今年の12月で、結婚して丸6年になる。
お互いに仕事はうまくいっており、世帯年収は2,500万ほど。年収は2人ともほぼ同じくらいだが、生活費の金銭的負担は夫のほうが少し多く、その分、担当する家事は私のほうが少し多い。
不公平にならないよう、きっちりルールを作った。
そんな結婚生活に、大きな不満はない。
それでも、ここ最近『離婚』の二文字が頭をよぎる。
― 私たち、一緒に暮らしている意味ないんじゃないかな…。
ひとりの時間を大切にしたい私たち。お互いの生活を尊重しよう、というところは合致している。だから、結婚当初からそれぞれの部屋を持ち、寝室も別にしている。
そのかわり、週に1回は必ずデートする……はずだった。
しかし、結婚して3年が過ぎた頃から、徐々にデートの頻度が低くなり、コロナをきっかけに毎週のデートや外食をほぼしなくなった。
最近は、外食はおろか、2人でスーパーやコンビニさえ行っていない。
コロナの影響もあって、お互い家にいることが増えたが、夫は自室に閉じこもっているか、ゲームをしているかのどちらかだ。会話も必要最低限しか、交わさない。
そんな生活をしていたから当たり前だが、夫とはもう1年以上もレスだ。
結婚後6年も経てば、ほとんどの夫婦が“家族”になり、レスになっていくのはよくあることかもしれない。
でも、私にとって夫は、家族というより“同居人”だ。この家には、家族の温かみなんてない。お互いが別の方向を向いて生きている。
仕事は多忙だが、家では気の利かない夫と冷めた夫婦関係を続けなければならない。
そんな日常に、私は寂しさを感じていた。
― 心を癒してくれる何かが欲しい……。
ライブ配信アプリ
「奈津子さん。そういえばWebCMのコンペ、うちの会社負けたらしいですよ」
久々に出社し、後輩とランチをしているときのこと。軽めのパスタコースを食べ終えたあとに、彼女が突然仕事の話を始めた。
「ああ、A社のやつね。そんなに大きな案件でもないのに負けるなんて、油断してロクに企画を練ってなかったんでしょ」
「それもあるみたいなんですけど、なんか、勝った代理店の企画が『ライブ配信アプリの人気投票ランキングで、キャスティングを決める』っていう内容だったみたいで」
彼女の言葉に、私は眉をひそめる。
最近は、外出自粛も相まって、家で楽しめるライブ配信アプリが、世間で話題になっていることは知っていた。アプリ内のイベントで優勝した配信者は、番組やCMに出演できたり、アイドルデビューすることもあるという。
でも、今回コンペを行ったA社は、日本中の誰もが知る大手化粧品メーカー。いくらWebCMとはいえ、配信アプリをやっているような素人同然のタレントをキャスティングするなんて驚きだ。
「なんか、配信者のファンってすごいんですって。この前の雑誌モデルのイベントなんて、1位の子には、2週間で合計1,000万以上課金があったみたいです。1番課金した人は、500万くらいつぎ込んだとか…」
「ひとりで500万!?ほぼ半分を、その人が捻出したってこと!?」
思わず大きな声を出してしまい、手で口を押さえる。そんなに有名なわけでもないタレントに、大金をつぎ込む人たちが存在するのか。
しかも相手を画面越しでしか拝めず、投資したとしても付き合えるわけでもなんでもなく、ただお礼を言われるだけなのに。
「ライブ配信アプリのランキングって、課金がすべてですからね。ファンがどれだけいても、その課金が少額だったら意味がない。ひとりの金持ちが全部ひっくり返せるんです」
課金は、直接タレントにお金を振り込むわけではなく、そのアプリ内だけで使える「ギフト」というのを買って、配信中にプレゼントするシステムらしいが…。
私が、理解できないというふうに首を傾かしげると、後輩はさらに続ける。
「ファンは、『自分がこの子を押し上げたんだぞ!』ってドヤ顔できるし、Win-Winみたいですよ」
「……そんなことのために、お金を使う人たちがいるのね。私だったら旅行したり、美味しいもの食べたり、自分のために使いたいけどねぇ」
私がそう言うと、後輩は大きくうなずいた。
お互いに食後のコーヒーを飲み干し、「そろそろ行こうか」と店を後にした。
この記事へのコメント
一緒に住んでるのに、ひどい。
最近、地下アイドルとか推しメンとか YouTuberとか、頻繁に登場するね。