結婚すれば、独身時代のように女同士のいざこざに巻き込まれることはない。
そう思っているとしたら、大間違いだ。
家庭を持つと、夫の母、つまり”ラスボス”のような存在の女との、深く長い付き合いが始まる。
順風満帆な人生を送るワーママ・真悠(33)は、この夏、その事実にようやく気がついた。
これは、彼女が経験した1話読み切りのストーリー。
星に願いを
― ふぅ、間に合った…。
今朝は、服に迷いすぎて遅刻寸前だ。
お洒落は我慢と言うけれど、薄手とはいえフォクシーの秋物ワンピースは、まだ早かったかもしれない。残暑の厳しい東京では、汗だくになる。
だけど、夏の装いにはもう飽き飽きだ。シーズンの初めには、あんなに軽やかで新鮮に映ったノースリーブやカゴバッグが、8月も終盤になると色褪せて見える。
14階にあるオフィスに向かうエレベーターに駆け込むと、先客が1人いた。どこかで見た記憶がある美女。
私はハンカチで汗を抑えながら、彼女をそっと盗み見る。
― あっ!この人って、七夕のときに短冊に願い事を書いていた…。
◆
夏の初め。
勤めている会社が入っているビルの共用部分に、七夕の笹が設置された。
日に日に増える短冊を眺めるのが習慣になった。「ノルマ達成!」「疫病退散」「5兆円欲しい」…。
人の願望は色々だけど、見ていてときめくのはやはり恋愛系だ。あれはただ「彼氏ができますように♡」と書くより「祥平くんと付き合えますように」と具体的に明記する方が、効果大な気がする。
ある日のこと、私と同い年くらいの女性が短冊を笹に吊るすところに遭遇した。綺麗な人だったので、どんな願い事なのか興味が湧いて、通りすがりに見てみる。
― えっ?
「義母と縁が切れますように」
薄紫色の短冊には、丁寧にそう書かれていた。
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