2021.07.20
アイ・ニード・モア〜外資系オンナの欲望〜 Vol.1― どうせ「ヨリを戻したい」とか書いてあるんでしょ…。
そんな気持ちで手紙を読み進めはじめた佳奈子の心臓が、早鐘のように打ち始める。
簡素な挨拶のすぐ後に書かれていた内容。それは、雄介が再婚するという報告だったのだ。
『再婚はしたけれど、もちろん凛の父親としてはこれからも…』
そこから先の文章が、全く頭に入ってこない。
― なんで、あんな低スペックな男が私より先に…。
佳奈子の頭は、そんな考えと動揺でいっぱいになってしまったのだ。
信頼する友人からの、思いもよらぬ言葉
数日後。『オークドア』のテラス席に里奈の姿を見つけた佳奈子は、柄にもなく小走りで駆け寄り、向かいの席に座った。
「里奈、突然呼び出してごめんね。どうしても聞いて欲しい話があってさ…」
ウエイターに手早くランチのステーキサンドとアイスティーを注文すると、待ちきれずに里奈に向かって雄介の再婚についての愚痴を吐きはじめる。
雄介からの手紙を読んだあの夜。どうしても動揺が収まらなかった佳奈子は、久しぶりに昔からの友人である里奈に連絡を取り、今日のランチの約束を取り付けたのだった。
中高の同級生である里奈は、慶應大学を卒業後、商社の総合職として活躍している。才色兼備でもある彼女は、佳奈子にとっては数少ない“同レベル”の人間だ。
ともすれば自慢話にもなりかねない佳奈子の愚痴や悩みも、里奈なら理解して共感してくれる。そう思っていた佳奈子は、堰を切ったような勢いで、思い通りにいかない近況についてこぼし続けた。
「雄介から再婚するって連絡があったの。あんなに私との離婚を渋ったくせに、あっさり再婚するなんて信じられなくない?
私も色々頑張ってはいるけど、なかなかいい人っていないよね。私と同じくらい稼ぐ同年代の男ってどこにいるのかしら」
食事とともに愚痴が進む。“同レベル”の友人に気の置けない話ができる楽しさ。
黙って話を聞いている里奈の表情が浮かないことにも気づかずに、佳奈子はどんどん饒舌になっていった。
しかし…。
「でもね、やっぱり凛のことが大切だから。やっぱり弟か妹を生んであげたいなぁって。だって、1人じゃ可哀そうじゃない?」
そう佳奈子が口にした、その時だった。
ずっと俯き加減だった里奈が、急に顔を上げたかと思うと、憐れむような眼差しを向けて言った。
「あのさ、佳奈子。ずっと話聞いていたけど…。私、佳奈子の言っていること、全然理解できない」
「え…?」
里奈の口から飛び出した、これまで聞いたことのない冷たい声。あまりの驚きに、佳奈子はただ凍りつくしかなかった。
「佳奈子、人を何だと思っているの?年収が高いのがそんなに偉いことなの?雄介さんは、収入はあなたが望むレベルではなかったかもしれないけど、堅実で優しい人だったじゃない」
何も言えずにいる佳奈子に向かって、今度は里奈が堰を切ったように話し始める。
「年収、年収って、バカみたい。年収が高いパパがいいって凛ちゃんが言ったの?雄介さんから凛ちゃんを奪っておいて、自分は母親に凜ちゃんを預けて男とデート。挙げ句の果てに凜ちゃんに弟か妹か、なんて笑わせないでよ。凜ちゃんのために婚活しているかのように言っているけど、結局自分が遊びたいだけでしょ?」
「里奈…」
人のことを叱責することはあっても、叱責されることなど佳奈子には皆無だ。
“同レベル”であるはずの里奈の、見下すような目。生まれて初めてとも言える状況に、ただ佳奈子は混乱していた。
固まってしまった佳奈子に向かって、里奈はため息をつく。
そして、すっかり帰り支度を整えて伝票を手に取ると、言い聞かせるように佳奈子に語りかけた。
「佳奈子。向上心が高いことと、小さな幸せに満足しないことは全然違うよ。パパを奪っておきながら、男遊びに夢中だなんて、私が凜ちゃんなら心底軽蔑する。近い将来、娘にまで見捨てられないようにね…」
そう言って里奈は、振り返りもせずに店を後にしてしまった。
「娘にまで見捨てられないように」
その言葉が意味するのは、佳奈子がたった今、里奈に見捨てられたということだった。
誰もいなくなった席を前に、佳奈子はただ茫然とする。
― 向上心が高いことと、小さな幸せを不満に思うことは違う?私がもっとハイスペックな夫を求めたことは、間違いだったっていうの…?
そんなことはない。私は間違っていない。私には、もっと相応しい世界がある。
いつもならそう簡単に切り替えられるはずなのに、呪文はまったく効かなかった。
向上心を持つことで、もっと多くを求めることで、外資系オンナとしての全てを手に入れてきた佳奈子。
そんな佳奈子が今、心の底から求めていることは、優しい雄介の胸で泣き、娘を力強く抱きしめることだった。
― 私、もっと多くのものを欲しがった結果、全てを失ってしまったの…?
いつの間にか、アイスティーのグラスが目の前で倒れている。
赤く滴る雫が、血のように、涙のように、取り返しがつかないほどテーブルを濡らしていた。
▶他にも:「上司の誘いを断れなくて…」六本木の高層マンションの一室で、人妻が頼まれた衝撃的なコト
▶Next:7月27日 火曜更新予定
「執行役員」の立場を手に入れた女-華麗なポジションの裏にあったものとは。
向上心と独りよがりを履き違えたらだめですね。
「いいことはおかげさま、わるいことは身から出たさび」、自分も気をつけよう。
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