へんなかねもち図鑑 Vol.1

へんなかねもち図鑑:「ネイルが紹介で半額♡」の罠。富裕層が支払う本当の“お友達価格”とは

茉莉花さんが持って現れたもの。

それは、2つの大きなグリーンの紙袋だった。

「それ『ベイユヴェール』ですよね!」

大興奮して話しかける私に、茉莉花さんは照れくさそうに笑う。

「大荷物で恥ずかしい〜。私、ここのケーキが大好きで。今日はあんまり可愛いからマカロンも10個くらい買ってきちゃったの」

『ベイユヴェール』といえば、バタークリームで繊細な花びらが施されたケーキは1万円超え。マカロンに至っては、ひとつの値段が1,500円くらいはしたはずだ。

― 1,500円のマカロンを大人買いだなんて!…ネイルが終わった後に、お友達やご家族と楽しむのかな。

甘いものフリークにとって夢の高級品。それが総額3万円くらいは余裕で詰まった紙袋を目の前にして、私は羨望のため息をつく。

そして促されるままにサロンのあるマンションへと入りながら、ふと心配になって彼女に声をかけた。

「でも茉莉花さん、ケーキもマカロンも、ずっと冷やしてないとダメですよね?時間大丈夫でしょうか?」

ネイルサロンは、デザインによって平気で2~3時間かかることもある。

宝物みたいなスイーツがネイルの間に台無しにならないか、ハラハラして思わず出た言葉だったけれど、彼女はただ「よく意味がわからない」というようなキョトンとした表情を浮かべるのだった。



「ようこそ〜!茉莉花、いつも来てくれてありがとう。日菜さんも、いらしてくださって嬉しいです」

マンションの一室で出迎えてくれたのは、このネイルサロンのオーナーで、茉莉花さんとは小学校からの同級生だという由香さんだ。

目の前に並べられたデザインはどれも品がよく、サロンの雰囲気も優雅な感じ。私の担当は由香さんのアシスタントの女性で、茉莉花さんや由香さんと同じような“お嬢様な雰囲気”を身に纏っていた。

まるで高級ホテルのスパみたいな空気に、私は今一度気を引き締める。

― やっぱり、調子に乗って注文しすぎると高くつきそう…。

おずおずと一番安い価格帯のデザイン見本を手に取ると、隣のデスクから由香さんが声をかけてくれた。

「日菜さん、今日はお値段気にしないでね。茉莉花の紹介なんだし、どんなデザインでも8,000円にしちゃう。遠慮なくご希望なさってね」

「ええっ、いいんですか!?」

大袈裟に驚く私に、由香さんが続ける。

「もちろん。茉莉花もいつもこの値段なの。ね、茉莉花」

茉莉花さんも同じ値段なら、あんまり固辞するのも失礼になるはず。表面上は引き続き恐縮しながらも、私は内心思い切りガッツポーズを取っていた。

― やった!“お友達価格”きたー!

こんなハイセンスなサロンで8,000円なんて、相場の半額以下だ。せっかくならお言葉に甘えて、思いきりゴージャスなデザインにしちゃおうかな?

…そう思っていると、浮かれきった私の耳に、茉莉花さんの声が飛び込んでくる。

「由香、いつも本当にありがとうね。じゃあ、これ…」

そう言いながら茉莉花さんは、しばらくゴソゴソとかがんでいたかと思うと…。

あの『ベイユヴェール』のケーキとマカロンが入った紙袋を、2つとも由香さんに差し出したのだ。


―!?

目を丸くする私の横で、茉莉花さんと由香さんは穏やかに話し続ける。

「やだ〜茉莉花。いらないっていつも言ってるのに」

「ううん。由香の最高なセンスでやってもらってるのに、こんなに安くちゃ気が済まないもん。良かったらサロンの皆様やご家族で楽しんでね」

あた......


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