復讐 Vol.5

「僕と結婚したいなら、それくらいしてくれるよね?」彼氏から突きつけられた最悪の選択

「…行かないよね?」

イギリスへの赴任を打診された、と嬉々として伝えたとき、彼の表情からは感情が消えた。そして、放たれた言葉がそれだった。

和也は、普段から冗談を言ってばかり。ひょうきんもの。お調子者。そんな言葉が彼を表すにはぴったりだ。

けれど、この時に彼が見せた表情は、無。真っ黒な生気を失った瞳が、こちらをじっと見つめる。

「…行こうと思ってるんだけど」

「どうして?2,3か月の話じゃないよね?数年行くんだよね?」

「…うん」

「遠距離になるんだよね?僕と結婚とか考えてないの?」

「考えてるけど…、30歳になってからでも遅くないよね?」

「僕はそんなに待てないよ」

「…え」

正直、そこまでは考えていなかった。結婚願望はあるけれど、仕事に夢中すぎて、具体的に自分がいつ結婚するのかまで、考えは及んでいなかった。

それに、結婚は1人でするものじゃない。和也の考えを一切聞かずに自分1人で判断しようとしたことを、この時やっと反省した。

「僕より赴任をとるなら、しょうがないよ…」

初めて見る和也の悲しそうな目。彼が別れを視野に入れていることを察した私は、初めて思い知らされた。自分がどれだけ和也のことを愛しているか。付き合い始めて3年。彼への愛情が冷めたことは、一度たりともない。

和也を失うかもしれないという恐怖に、知らぬ間に涙が流れていた。

「私、和也と一緒にいたい!結婚したい!!」

「じゃあ…赴任、断ってくれる?」

私は静かにうなずくと、彼は優しく抱きしめてくれた。

彼の首筋に顔を埋めながら、涙がとまらなかった。だが次から次へと流れ出る液体は、徐々にその意味を変えているような気がした。

―あんなに頑張って、嫌な思いもいっぱいした。それくらい必死で食らいついて、やっと手にした海外赴任への切符だったのに…。本当は諦めたくないけど…。でも、和也のことは絶対に手放したくない…。

自分が男だったら、こんな苦しみを味わうことはなかったのだろう。そんなことを思ったりした。

そして私は、断腸の思いで、海外赴任を断ったのだ。

和也と海外赴任。この2つを天秤にかけたとき、振り子はわずかにだけど、確実に和也に傾いた。だから、迷いはなかった。

けれど、それから1年後、悲劇が起きた。

『紗由里:クリスマスどうする?』

普段はどんなに遅くても数時間以内に返信をよこす和也から、2日以上返信がない。

『紗由里:25日にしない?料理つくるから、うちでパーティーしようよ!』

追いLINEをしても2日以上返信がない。この時点で、何かおかしいと頭ではわかっていた。

けれど、1週間、2週間と彼からの連絡を待った。事故にあったのではないか、死んでしまったのではないか、本気で彼の安否を心配してしまうほどだった。

そして、ようやく連絡がきたのは、最初のLINEをしてから1か月たってからのことだった。

『和也:ごめん、寝てた』

明らかに適当な、自分のことを蔑ろにしているメッセージ。私は怒りと勢いに任せて、彼の自宅へ詰めかけた。

そして…そこにいたのは、知らない女だったのだ。


「…どういうこと?」

「いや、これは違うんだ…」

「もう、違わないでしょ…。私と結婚するんだよね?さすがにハメ外しすぎでしょ…」

「…いや、それは」

明らかに歯切れの悪くなった和也に、そこにいた見知らぬ女が割って入った。

「和也と結婚するのは、私です」 ......


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