忘れられない“あの日” Vol.2

合鍵を使って、1ヶ月ぶりに彼女の部屋を訪れたら…。男が見てしまった衝撃のモノとは

ユカの家が見えてきた。

ケンカの勢いで「返して」と言われた合鍵を、ヤケになって突き返さないでいて良かった。


『しばらく距離を置きましょう』

『クリスマスはひとりで過ごして、ゆっくり考えたいの』

一方的にそう送ってきたきり、LINEは返ってこなかった。

でもそれは、引くに引けなくなって飛び出た言葉だってことも、僕にはわかる。これまでもよくケンカをしたけれど、その度にユカは音信不通になって、僕を試していたから。

素直になれない、似たもの同士。

今回は僕の方が折れることにした。

この時間ならきっと、Netflixでも見ながら長風呂中だろう。

ユカが気づかないそのスキに、僕が部屋に忍び込んでビックリさせる。

それが、幸せな頃の僕たちの、定番のサプライズだった。


1ヶ月ぶりに訪れたユカのマンション。

早く彼女の顔が見たい。

顔を見て、謝って、抱きしめて、そして…欲しがっていたはずのこのプレゼントを、早く渡したい。

はやる気持ちをどうにか抑えつつ僕は、ドアの鍵穴にゆっくりと合鍵を差し込む。

今日は、これまでで一番のサプライズにしなくちゃならない。

音を立てないよう、ゆっくり、ゆっくり、細心の注意を払ってドアを開く。

ほんの少しだけ開いた隙間からは、思った通り、シャワーの音が聞こえた。


やっぱり!

予想がドンピシャで当たった僕の口からは、思わず笑い声が漏れそうになる。

でも、ここで気づかれたら台無しだ。

まずはこのまま気配を消して、いつもみたいにリビングに向かい、買ってきたシャンパンをセットして…


浮かれた頭でそこまで考えた時。僕は、ふとした違和感を覚えた。


ワクワクではち切れそうだった気持ちが、急速に萎んでいく。

指輪の箱を握っている指先が、みるみる冷たくなっていく。

玄関に並んでいるファビオルスコーニやロジェヴィヴィエのパンプスたちの中で、

異質なモノが、その存在を主張している。



それは、無造作に履き潰された



一足のメンズのスニーカーだ。


バスルームから聞こえていたシャワーの音は、いつの間にか止んでいた。

代わりに聞こえるのは、今まで何度も耳にした鼻にかかるような甘い、甘い、彼女の声。

お古ばかりを与えられていた、僕のクリスマス。

それが辛かったという話に共感してくれていたのに…そんなことすら、忘れてしまったのか?

もし、ジョンロブのスニーカーをくれるのなら、こんな中古はやめてくれ。


残酷すぎるクリスマス。

これが彼女からのプレゼントだとしたら

僕はそっと、“2人”に気づかれないように、ドアを閉める。

間抜けな僕からのプレゼントは合鍵。それをポストに入れた。

母の声が、悪い夢みたいに頭の中に響き渡る。

『信二。クリスマスなのよ。本当に何もいらないの?』

あぁ、いらないよ。メリークリスマス。

僕はもう

何も

いらない。


▶前回:「もう、限界…」結婚記念日に離婚を決意した妻。決定打となった、夫からのプレゼントとは

▶NEXT:12月31日 木曜更新予定
「新年早々出会ってしまった彼との出来事」

東レデート詳細はこちら >

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
切ないか?1ヶ月も音信不通だったのに突然来るとか怖すぎ。
2020/12/24 07:1999+返信2件
No Name
彼に合鍵渡してるのに
他の男とイブにいいことするなら
ドアにチェーンはかけておいた方がいいよ
2020/12/24 06:5899+返信2件
No Name
切ないなぁ…

喧嘩の後の自己陶酔ぶりには引いたけど。
2020/12/24 05:1299+返信2件
No Name
ユカにはもう新しい彼氏がいたのか(二股かけられてたのかもしれないけど)
一人称の語りが切なさを引き立てますね
2020/12/24 05:2686
No Name
クリスマスにお古の積み木はひどいよなぁ。
2020/12/24 06:3851返信2件
もっと見る ( 56 件 )

【忘れられない“あの日”】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo