「大間のマグロ」や「関サバ」など、地名がブランドとなる魚介は大人たちを高揚させるもので、食材の出自に着目してレストランに向かうのもオツだ。
なかでも一目おきたいのが、プロが認める魚としても名高い、福島県内で水揚げされる、通称「常磐もの」。
冬のご馳走、「常磐もの」を求めて、美食家たちが足を運ぶ店とは。
六本木の1ツ星で味わう「常磐ものの鮨」がたまらない
『鮨 由う』
とある冬の日、酒と魚の相性を熟知したソムリエの田崎真也さんと、美食を楽しみに毎年福島へ通うアナウンサーの宇賀なつみさんが冬のご馳走を味わいに向かったのは、「常磐もの」を出す鮨屋。
常磐ものとは福島県浜通りと茨城県の沿岸海域で獲れる水産物の総称で、特にいわき市では「いわきの常磐もの」としてブランド化され、築地の食のプロの間でも高品質と認められる魚介である。
常磐もののレベルが高い所以は、第一に恵まれた漁場。釣りを目的に熱海に家をもつほど魚が好きな田崎さんも、福島の海についてこう話す。
「常磐沖は寒流と暖流が交わる潮目があるのでプランクトンが非常に豊か。魚はプランクトンが多いほど繁殖しますが、この海はその点でとても優れています」
この地域の海は黒潮と親潮がぶつかる「潮目」であり、黒潮とともに北上してきた様々な魚が、親潮で発生したプランクトンを食べて繁殖するため、質のいい魚が獲れると有名。
春子鯛と会津の日本酒「ロ万」の相性を味わった田崎さんも、「春子鯛は塩の加減や酢とのバランスが難しいですが、絶妙な状態で仕上げられていて流石だなと思いました。
繊細な身は酢飯との一体感も完璧。皮下にいい感じの脂がのっていて、会津の日本酒『ロ万』が旨味や甘みを上手く引き立てています」と太鼓判を押す。
そんな「常磐もの」を食べるに最適な店を訪れた宇賀さんは、実は取材をきっかけに9年間福島に通っている。
「福島に行ったら必ず現地の魚と日本酒をいただいています」と話し、東京の鮨屋でその組み合わせが堪能できることに目を輝かせた。
オープン初年から食通たちに高評価を得た実力店『鮨 由う』の大将・尾崎氏は、冬が旬である常磐もののヒラメやメヒカリ、アンコウを、「圧倒的に旨味がある」と採用する。
尾崎氏が魚を切り出すと、すでに常磐ものの身質のよさは見てとれるもので、例えばヒラメはもっちりとして包丁にまとわりつくほど。
春子鯛も、「常磐の春子鯛は身が柔らかめ。取り扱うのは難しいけど食べた時の口溶けのよさは最高です」と言う。