やまとなでし男 Vol.2

プロポーズを断られ、250万をドブに捨てた男。自暴自棄な彼を襲うさらなる悲劇

不要なお迎え


遡ること30分前。

「私はここで。本当にごめんなさい」

クルージングを終えた麻子は、足早にタクシーに乗り込み、その場を立ち去った。

憲明は呆然と立ち尽くすことしか出来ない。

プロポーズを断られるという非常事態が発生し、放心状態だったのだ。

だが、ここで待っていても麻子が戻ってくるわけはない。さっさと帰ろうと足早に立ち去ろうとした時、「お客様」と呼び止められた。

目の前には、ド派手なリムジンが停まっている。

−そうだった…。

すっかり忘れていたが、宿泊先・帝国ホテルまでの道のりも豪華にしようと、リムジンをチャーターしていたのだ。

スーツに白い手袋をした運転手が、恭しくドアを開ける。

1人でリムジンに乗るなんて予想もしていなかったが、自分で予約した手前、帰ってくれとは言えないし、ここで白を切るわけにもいかない。

「どうも。よろしく」

憲明は、精一杯の強がりで涼しい顔をして、颯爽とリムジンに1人で乗り込んだ。


「麻子!?」

うっかり眠ってしまっていた憲明は、ピコーンというスマホの音で飛び起きた。

もしかして思い直してくれた麻子から、いい返事が来たのかもしれない。一縷の望みを持ってソファに駆け寄り確認したが、麻子ではなかった。

“おい、報告がないぞ”

“憲明と麻子の写真、見せろよ!”

大学のサークル仲間とのLINEグループに、次から次へとメッセージが増えていく。

最悪だ。あんなに高らかにプロポーズすると宣言した自分が悪いことは分かっているが、今は放っておいてほしい。

「空気読めよ!」

憲明は、イライラする気持ちをスマホにぶつけて、電源を強制的に落とした。

−ああ、何か強い酒でも飲まないとやってられない。

ウィスキーを、クッと飲む。飴玉を舌で転がすようにとか、舐めるようにチビチビと飲んでいる場合じゃない。やけ酒だ。

勢いに任せて飲んでいた憲明だが、15分もすれば頭がズキンと痛み出した。普段、格好つけて飲める風を装っているが、実は大して酒に強くない。

ふらふらする足元で冷蔵庫にミネラルウォーターを取りに行く。

キンキンに冷えた水を喉に流し込むと、一瞬だけ酔いが覚めたような、そんな感覚に陥った。

「うううう…」

だが、それも一瞬の話。すぐに頭が痛み出す。これ以上飲むと大変なことになることは目に見えている。

憲明はミネラルウォーターを大量に飲んで、ベッドに横たわった。

この記事へのコメント

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No Name
憲明は、麻子にプロポーズ失敗の責任を擦り付けようとしてる? 勝手に話を進めて勝手に自爆しただけなのに……。

麻子、250万円払ってでも別れたいんだね。分かる気がする。ずっとお金の話しかしてなさそうだし。結婚しても、
「これは幾ら、これは幾ら」
って、聞かされると思うだけでうんざりする……。
2020/10/20 05:2099+返信5件
No Name
貴方とは結婚したくないってことに、理由なんてある? 嫌なものは嫌ですよ。しかしこの男、バカな上にダサすぎる。
2020/10/20 05:4099+返信4件
No Name
麻子がプロポーズを断った理由も、ずっと解明されないまま引き延ばされるのかなー?
2020/10/20 05:3493返信7件
No Name
麻子さん、早くはっきり言って下さい
彼のためにも、読者のためにも
頼みますよ(笑)
2020/10/20 06:0071
男が悪いのはわかってますが肩を持ちます
彼女側も、彼氏からのプロポーズがありそうだなぁ、と少しは感づいていたならば、その前に距離をとるとかしてほしかった

付き合って3日ではあるまいし、彼女もそういう自分勝手な彼氏とわかっていたハズ
2020/10/20 05:4442返信2件
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