たかが離婚、されど離婚 Vol.4

「まさか妻が、1年前からこんなコトを…」別居中の妻が、夫に秘密でしていた行為とは

「…違和感があるんだ」

真由子は黙って聞いている。彼女は昔から、決して話を遮ることはしない。

真由子とは15年も一緒にいた。その間彼女は、いつだって笑みを絶やすことはなかった。しかしいつからか、そんな彼女に対して言葉にできない感情を抱き始めた。

彼女の笑顔を見るたびに、妙な居心地の悪さを感じるのだ。

愛しているはずなのに、彼女と過ごす時間がなぜか苦痛に感じるようになった。

それが別居の理由だ。しかし決して嫌いになったわけではないからこそ、その感情を1年前はうまく説明できなかった。それでも真由子は、なぜかあっさりと別居に応じた。

だが今まさに、不意に発した自分の言葉で気づかされた。真由子に対して、自分は違和感を抱いているのだと。

「違和感って、どんな?」

真由子はそれでも笑顔で尋ねる。

その表情だよ、と言いそうになって将人はやめた。なぜ真由子の笑顔に違和感があるのか、聞かれても答えることができない。

「うまく説明できないけど、とにかく違和感があるんだ。説明ができないからこそ、この1年で解消されるかと思った。でも、まだもう少し時間が必要みたいだ」

すると、真由子はゆっくりと話し始めた。

「あのね、別居中に連絡をしなかったのは、怖かったからなの。連絡をしてしまったら離婚手続きをしなきゃいけない気がして」

「うん」

「将人が戻って来てくれるって信じてたから」

「うん、俺も連絡しなくてごめん。真由子と向き合うことから逃げてたんだと思う」

「お互いに逃げてたかもね。話を聞いてて、将人が今の状態で楽に過ごせるなら、別居婚もアリかなあと思ったよ」

将人はうつむいていた顔を上げた。

「真由子はそれで良いの?」

「うん。将人と夫婦でいられるなら、それでも良い」

真由子はきっぱりと言い切った。

―彼女は、俺の気持ちがまとまるのを、待っているんだ。

真由子がお手洗いで席を外している間、将人は違和感の正体を探った。

思い返せば、真由子は完璧を求める人だった。規則正しい生活に毎日手の込んだ食事。高い向上心から、休日も何かしらの勉強をしていた。自分で決めたスケジュールを予定通りにこなすことに楽しみを見出す人だった。

一方の将人は、休みの日は予定を立てずに気ままに過ごすのが好きだった。朝起きてコーヒーを飲みながら今日は何をしようか、と考えることに幸せを感じていた。

正反対な生活リズムは、長く一緒に過ごすうち、どんどんと明確になり、いつしか将人は窮屈な思いを抱くようになった。

―でもそれはきっと、“違和感”とはまた少し違う…。

生活スタイルの相違は、これまで何度も考え悩んできたことだ。言うなれば表面的な事象に過ぎない。

違和感。それはもっと根深いものだ。

真由子が席に戻ってきた。時間切れだ。

「俺のわがままばかり通してごめん。でも今後のことは前向きに考えたいから、もう少し時間をください」

そう言いながら、将人は頭を下げる。

「うん。待ってる。でも別居していても、たまには食事したり、デートしたいな」

付き合い始めたころのような、恥じらう表情で真由子は言った。

「うん。予定が合えば、また一緒に出かけたりもしよう」

予定が合えば…。含みを持たせた自分が情けない。だが自分の気持ちが整理できるまでは、気軽に真由子と会うことはできそうにもない。

内心を悟られたくなくて、将人はあえてまっすぐに真由子を見た。

彼女は満面の笑みを浮かべていた。

「嬉しい。今日はとても良い夜だな」


店を出たあと、2軒目に行くことなく解散した。

別居先のマンションに帰宅後、将人は真っ先にバスルームに向かい、べたつく汗を洗い流した。

髪の毛を乾かしながら将人は溜息をもらす。さっぱりした身体とは正反対に、気持ちは晴れない。違和感の正体がどうしても引っ掛かる。

スマホ......


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