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  • 「今まで言ってなかったけど…」結婚2年目、妻が夫に初めて打ち明けた“秘密”とは

    まずは、自社醸造しているというクラフトビールで乾杯すると、康介は店内をぐるりと見渡した。

    「アラビア料理のお店ってどんなところかと思ってたけど、すごく雰囲気あるね。ランプも家具も食器も、現地から運んできているんだって。これだったらたしかに、日本にいるのに非日常感を味わえるよ」

    興奮した様子で言うと、ビールを手に取り喉に流し込む。理央は、彼の喉ぼとけが上下する様を見つめた。

    1杯ずつビールを飲むと、料理に合わせてワインを注文した。そして運ばれてきた料理は、目にも楽しいタパスと、アラビアンプレート、鶏肉とモロヘイヤのエジプシャン・タジンだ。

    上左:アラビアンプレート、上中:鶏肉とモロヘイヤのエジプシャン・タジン、上右:バスマティライス、下:アラビアン・タパス。ジョージアの直輸入のワインとともに。


    理央と康介は、ほぼ同時にタパスをつまんで口に運ぶと、「美味しい!」と言って笑い合う。

    それで口火を切ったかのように、このお料理に使われているスパイスは何か、という話から始まり、最近の仕事のこと、共通の友人の話、去年一緒に行ったハワイの思い出話など、家で食事をしているときには滅多に話さないようなことまで話題に上り、話に花が咲いた。


    「スパイスが効いてると、いくらでも食べちゃうね。もう、お腹いっぱいだよ」

    料理を食べ終えた理央は、そう言いながらもデザートを注文した。そしてデザートが運ばれてきたタイミングで、大きく咳ばらいをして、口を開いた。

    「今日見てきた部屋と、これからの私たちのことなんだけど…」

    理央が話し始めると、康介はそれまで緩んでいた顔を急に引き締め、姿勢を正す。

    「部屋は、とても素敵だった。この部屋でゆっくり仕事できたら、また前みたいに集中できるんだろうなーと思ったら、なんだかすごく楽しみになったの」

    「そっか。まさか、もう契約までしてきた?」

    康介が、寂しそうな顔を見せた。

    「実は、今の今までは、もう明日にでも契約しちゃおうって思ってたんだけど…」

    「だけど…?」

    康介は、神妙な面持ちで理央の言葉を繰り返した。

    「私、本気で借りるつもりでいたんだけど、こうやって久しぶりに向かい合って康介と食事してたら、私がやるべきなのは別の場所を作ることじゃなくて、康介と一緒にいるための努力なのかなって思えてきたの」

    理央が言うと、康介も突然、身を乗り出すようにこう言った。

    「俺も今、同じようなこと思ってたんだ。最近一緒にいる時間は多かったのに、全然話せてなかったよね、俺たち」

    その言葉に、理央はこれまで口にしたことがなかった気持ちを、初めて康介に打ち明けることにした。

    「私ね、康介が美味しそうに食事してる姿を見るのが好きなんだよね。今まで言ったことなかったけど、最初に康介のことを好きだなって思ったのも、上品なのにとっても美味しそうに食事してる姿を見た時なの。

    そういう大切なことをすっかり忘れちゃって、最近の私はライフスタイルの変化にもついていけなくて、ちょっと頭に血が上ってたんだと思う。…ごめんね」

    普段のケンカだったら、気の強い理央が謝ることは滅多にない。だが今日は、自然と素直な気持ちを口にすることができた。

    その後は、これまでのことを互いに謝り、家事の分担や平日と休日の過ごし方について話し合った。

    一緒にいて、お互いが気持ちよく過ごすためにはどうすれば良いかを、初めてきちんと話し合ったのだ。

    2人の納得するルールが決まると、レストランを出た。すると、目の前にはきらきらと煌めく渋谷の夜景が広がっていた。

    レストランの正面は上の階まで吹き抜けで、壁一面が全面ガラス張りの開放的なフリースペースとなっており、そこには夜景を楽しむカップルも数組いた。

    「わぁ、すっごく綺麗!」

    理央は康介の手を取り、カップルたちに並ぶように窓際へと近づく。スクランブル交差点に、渋谷駅、宮益坂の方までが一望できた。


    「渋谷駅を上から見下ろせるって新鮮。あの暗いところは代々木公園かな?この数年で渋谷ってすごく変わったよね」

    いつも歩いている街も、角度を変えてみるだけで新鮮な気持ちが味わえる。この気持ちを、理央は忘れたくないと思った。

    そして、康介にこんな提案をしてみた。

    「ねえ、またここで待ち合わせして、デートしようよ。家から一緒に来るんじゃなくて、ここで待ち合わせするの。そしてお買い物して、食事して帰るの。次は、13階にある『José Luis(ホセ・ルイス)』っていうスペイン料理のお店に行きたいな。マドリードの有名店で、ここでしか食べられないピンチョスがあるらしいから」

    「へえ、13階にもレストランがあるんだ?」

    理央の提案に、康介も乗り気の表情だ。

    「そう、ビルの12階と13階がレストランフロアでね、『FOODIES SCRAMBLE』って言うんだって。FOODIESって“食通”っていう意味でしょう?食通たちを満足させるように、世界中から最先端の食のトレンドが集まってるんだよ。グルメな私たちにピッタリじゃない?

    12階は、お祝い事なんかのハレの日に行きたくなるようなレストランが揃ってて、13階は、少しだけカジュアルな雰囲気なんだって」

    理央が思わず得意げに話すと、康介は優しいまなざしを向けたまま言った。

    「本当だね。渋谷の駅から直結なのに、落ち着いてて非日常感もあるし、美味しいレストランも揃ってる。今まで来てなかったのが、なんだかもったいないよ」

    そして、「でもさ…」と、理央に向かって、引っかかっていたことを聞いてみた。

    「またここに来るのはいいけど、なんでわざわざ待ち合わせするの?家から一緒に来るのはダメなの?」

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