ヒマジョ Vol.2

家賃45万、身分不相応な暮らしをする女。外出自粛で稼げなくなり、彼女がやった大胆な行為

-8、9、10万。いつもより多いじゃん、ラッキー♡

そして、タクシーの中で素早くLINEを打つ。

『駿ちゃん、ありがとう☺️ 今度地元の無農薬野菜おすそ分けするね!』

『美緒チャン、今度はお鮨でもどうかな!? 野菜もいいけど、それより美緒チャンを独り占めしたいナ~!ナンチャッテ(^O^) 』

突っ込みどころ満載だが、特に反応せずスタンプで返事をして会話を終わらせる。

タクシーを止め、六本木のとあるレジデンスの前で降りた。

家賃は月45万円。ただのIT企業の会社員で、役職についているわけでもない、そんな私がここに住んでいることに驚く友達も多い。

でも、私にとって港区に住むなんて簡単。こうやって週に数回、経営者たちの飲みの場に呼ばれるだけでいいのだから。

ーはぁ、楽しい♡

そう、この時まで人生なんて楽勝だって、完全に調子に乗っていた。


ー2020年7月ー

「嘘でしょ...電気代ってこんなに高いの?」

今までまともに見たことのなかった料金明細を見て、思わず声が漏れる。

あれから数ヶ月、一度も西麻布へは行っていない。つまり臨時収入がゼロの状態だった。

しばらくは本業の給料と貯金で支払えていた家賃も、もう限界にきている。

駿太郎をはじめ、いろんな経営者の知り合いに連絡してみてはいるが、見事に総スルー。

それもそのはず。従業員や家族を持つ彼らが、この事態で容易に夜の街に出るはずなどなかった。

それでも私は、もう少し経てばなんとかなるだろうと、能天気に生活水準は下げずにいた。

しかし、それが自分の首を絞めることになる。

ーもうここには住めない。

引越しするにも、初期費用がかかる。ならば手段は一つだけだ。

プライドを捨て、私は六本木から退散した。



「ただいま〜」

「おかえり、美緒」

エプロン姿の母が玄関で出迎えてくれた。

そう、私は実家がある千葉の船橋に帰った。もうそうするしかなかったのだ。

実家は農業を営んでおり、小松菜をメインに育てている。

「よっ!出戻り娘。六本木でのバブリーライフも終了か?」

兄がからかってきたので、力強く足を踏んづける。

うちは災害や不景気を乗り越え、なんとか続いている農家だ。チェーン展開している飲食店と契約し、売り上げも安定してきたと年末帰った時に聞いたばかり。

しかし、飲食店の営業自粛の影響もあり、しっかりと打撃を受けていたようだ。

出荷の時期を見越して作ってきた野菜が、販売経路を断たれ、消費できずにいる。このままでは廃棄にするしかないと両親は嘆いていた。

この記事へのコメント

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No Name
この子面白いなあ
お金ない→即実家→何か出来ないか→そうだ!ネットで売ろう!

これ凄いと思う!
いい歳して兄に絡むのも、即配達員にしちゃうのも笑える(笑)
2020/08/15 05:3499+返信1件
No Name
イメージと違って、美緒は仕事が出来る港区女子なんだね😃 経営者も女子大生と話すより、美緒と話した方が楽しい、と言っていたのも嘘じゃないのね😊 IT企業で働いていることが生かせて、実家に貢献出来たもんね💻 素敵だよ😃
2020/08/15 05:3899+返信2件
No Name
駿太郎いがいとちゃんとイイヒトだなー^_^ 感心しちゃったよ!ナーンチャッテ☆
2020/08/15 05:4899+
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