彼女のウラ世界 Vol.10

「ベッドの上で見せた笑顔は、幻だった…?」付き合いたての彼女の態度が、一変したワケ

敏郎の申し出に、優里菜はいたずらっぽく笑う。

「近くに美味しいご飯屋さんいっぱいあるでしょ。それじゃあダメ?」

「健康のことを考えると、手作りの方がいいだろう」

実際に明子が去ってからの敏郎は、外食続きのせいで2キロほど太ったのだ。しかし、そんな敏郎の要求を聞いて、優里菜は急に真面目な顔になる。

「トシさんって何なの?箸の使い方とか、着ている服にもケチつけるしさ」

「ケチつけているわけじゃないよ。教えてあげているんだよ」

「そんなカンペキな人、今どきいないよ?」

―実際、いるんだよ。

敏郎は口に出すのをぐっとこらえる。すると、優里菜はため息をつきながら起き上がり、すぐに身支度を始めた。

「どうしたの」

「帰る。これから仕事あるし」

優里菜の表情は明らかに怒りを帯びていた。敏郎は優しさで指摘しただけにもかかわらず、その程度で怒る意味が理解できない。

そんなことをぼんやり考えているうちに、ドアを勢いよく閉めて優里菜が部屋を出て行ったのが分かった。

―やれやれ…。

冷静でいられるのは、明子のことがまだ忘れられていないからなのだと、敏郎は改めて認識した。


降りかかったスキャンダル


数日後。敏郎が出社すると、やけに同僚たちがこちらをチラチラと見ていることに気付いた。

―もしかして、例の映画企画に何か動きでもあったのかな。

胸を躍らせてパソコンを立ち上げると、所属する制作局のトップ・外山から呼びだしのメッセージがあった。

敏郎は意気揚々と、指定された会議室に出向く。


扉を開けると、そこには敏郎の所属する制作局だけでなく、広報局や営業など各部署の部長が揃っていた。

「どうしたんですか?…なにか物々しいですね」

半笑いで話す敏郎を、彼らはギロリと睨みつけた。

「これ、キミだよね」

外山は数枚の写真を、敏郎に見せる。それは、六本木の路上で優里菜と抱擁している写真であった。

「週刊誌から連絡が来た。相手はモデルの麻生優里菜、間違いないか。キミたちは交際しているのか」

「ええ、まあ」

敏郎は当然のごとく答えた。

「ゆくゆくはどうするつもりだ。真剣なのか」

「そんな、わかりませんよ」

「わからないじゃないよ。相手はあの事務所が今いちばん売り込みをかけている子なんだ。先方からもクレーム来てるんだから」

「え、そうなんですか」

実際、敏郎はまだ実感がわかなかった。むしろ、優里菜が芸能記者にマークされている存在だったということに驚いたくらいだ。

しかし次の瞬間、その事実の重大さを目の当たりにすることになる。

「村西君、申し訳ないが無期限の謹慎だ。すべての企画を降りてもらう」

「えっ、アンドリューの映画企画もですか。あれは僕がチーフで…」

「代わりはいくらでもいるんだよ」

敏郎の言い分をさえぎる外山の顔には、慈悲のかけらもなかった。

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