2020.05.21
SPECIAL TALK Vol.682020年のニューリーダーたちに告ぐ
世界中の著名な庭師たちがロンドンに集結し、毎年腕を競い合う「チェルシー・フラワー・ショー」。
世界で最も権威のあるこの祭典に14回出展し、11個のゴールドメダルを獲得しているのが、石原和幸氏だ。長崎市の酪農家に生まれた石原氏は、紆余曲折を経て生け花に出合い、その世界に魅了される。
天災やバブル崩壊に巻き込まれ、すべてを失うような挫折を味わいつつも、花の世界で勝負を続け、庭づくりという新しい領域にも挑戦し、今では世界中から依頼を受けるまでになった。
石原氏の作品がそこまでの力を持つのはなぜなのか。その理由を紐解き、ニューリーダーたちが混迷の時代を生き抜くためのヒントを探る。
石原和幸氏 1958年長崎県生まれ。22歳で生け花の本流「池坊」に入門。以来、花と緑に魅了され、路上販売から店舗を構え、そして庭づくりをスタート。その後、苔を使った庭という独特の世界観が国際ガーデニングショーの最高峰である英国の「チェルシー・フラワー・ショー」で高く評価され、2006年から異部門で史上初の3年連続ゴールドメダルを受賞。その後も出場を続け、合計11個のゴールドメダルを獲得。東京と長崎、福岡を拠点に個人・企業問わず、デザインにこだわったガーデンや壁面緑化のランドスケープデザイン・施工と総合プロデュースを国内外で手がける。
金丸:本日はランドスケープアーティストの石原和幸さんをお招きしました。
石原:お招きいただき光栄です。よろしくお願いします。
金丸:今日の舞台は、今年1月にオープンした表参道『élan(エラン)』です。フランス語で「飛躍」を意味し、「真に生命力が躍動し、想像力が羽ばたく場を提供する」をコンセプトに、本場フランスや銀座の星付きレストランで修業を積んだシェフによる、独創的なフレンチが楽しめるそうです。
石原:空間も素敵ですし、料理も非常に楽しみです。
金丸:さて、石原さんは園芸家にとって最高権威とされる「チェルシー・フラワー・ショー」において、何度も賞を獲得されています。最近では個人だけでなく、企業からの依頼もひっきりなしだそうですね。
石原:ありがたいことに都市開発のための公園整備といった、規模の大きな仕事もいただくようになりました。
金丸:園芸や造園というと、少し古典的なイメージがありますが、石原さんは庭づくりで独特な世界観を表現し、日本のみならず海外でも高い評価を受けています。そのクリエイティブの源泉は何なのか、じっくり伺いたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
挫折を経験しながらも、生け花と運命的な出合い
金丸:早速ですが、お生まれはどちらですか?
石原:長崎市内の生まれです。両親が爆心地から約3キロのところで被曝しましたので、私は被曝2世です。
金丸:ごきょうだいは?
石原:7人で、僕は下から2番目です。とはいっても、原爆症で生まれてすぐに2人亡くなっているので、実質は5人。男2人と女3人です。
金丸:長崎の歴史と苦難を感じます。
石原:もっとさかのぼると、うちは潜伏キリシタンの家系なんですよ。先祖には島流しに遭った人もいます。だから家族や親戚には神父やシスターも多いです。
金丸:そんななか、石原さんはまったく別の道に進まれたのですね。
石原:僕は神父の試験に落ちて、神学校に行けませんでした。でも実は、中学生の頃からモトクロス選手を目指していて、整備士の資格を取るために工業大学に行きました。
金丸:どうしてモトクロスを?
石原:実家が酪農をやっていて、朝から晩まで仕事に励む両親を僕も手伝っていたんですが、畑で耕運機に乗ったり、搾った牛乳を納品するためにオートバイを乗り回したりしているうちに、どんどん入れ込んでしまって。
金丸:面白いですね。酪農家ならではの入り口だ。
石原:その後、スカウトされて、本田技研のチームに入りました。将来、世界チャンピオンになることを目標に頑張ったのですが、20歳で近眼になってしまい。モトクロスは山道を走る激しい競技なので、近眼は致命的です。プロの道を諦めざるを得ませんでした。
金丸:将来の目標が失われてしまったのですね。
石原:そうですね。大学を卒業した頃、実家の周囲で土地開発が進み、酪農を続けられなくなって花き農家へと替わりました。僕は父の仕事を手伝いたいという気持ちもあったし、友人から「花屋は儲かるぞ」とも聞いていたので、じゃあ花をやってみようかな、と。
金丸:でも、それまでの人生で花に触れる機会はあったのですか?
石原:まったくありません。それで手っ取り早く花を勉強するために、生け花を始めたんです。生け花にはいろいろなスタイルがありますが、僕は池坊の「生花(しょうか)」に出合って衝撃を受けました。「真(しん)」「副(そえ)」「体(たい)」というたった3つの役枝だけで、美を表現するんです。山や川で遊びながら育ち、これまで草花をいくらでも見てきたけど、その草花でこんな芸術ができるのかと。「これはかっこいい!」とシビれて、入門を決めたのが22歳のときでした。
金丸:自然に囲まれているのが当たり前の環境で育ったからこそ、衝撃がより大きかったのですね。
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