
春とは名ばかりの浅春の頃、雪間にそっと顔を覗かせるふきのとうのけなげな姿は、遠からぬ春の訪れを思わせ、寒さの中にもホッとした温もりが伝わってくる。キク科の多年草で、ふきの蕾であるふきのとうは、春の訪れを告げる日本原産の山野草。だが、黄緑色の瑞々しい見た目とは裏腹に、苦味は鮮烈。冬の長い眠りから、今、まさに覚めんとする春の息吹のような味にはまた、新陳代謝を促進する働きもあるそうだ。
「ふきのとうの魅力はまさにこの苦味にあるといえますね」。力強く語るのは、鈴木弥平シェフ。独特の風味を立ち上らせ、淡い萌もえ葱ぎ色をして登場するご覧のリゾットは、そんなふきのとうのほろ苦さを存分に生かした『ピアットスズキ』の早春のスペシャリテだ。
低温のオリーブ油でゆっくりと、コンフィの如く炒め煮にしたふきのうとうのペーストは、十分乳化されることで苦味がややまろやかに仕上げられている。この苦味に拮抗すべく用いたのは、熟成感がありつつもストレートな塩味のアンチョビ。ひと口、口にした時の凄烈な苦さから、穏やかに拡がっていく仄ほのかな苦味の余韻が愛おしい。