14日間の恋人 Vol.2

「彼を忘れたいなら、俺を利用すれば…?」出会って2日目で、素性もわからぬ男に心を許した女

ひとり旅をするとき、こんな妄想をしたことはないだろうか。

ー列車で、飛行機で、もし隣の席にイケメンor美女が座ったら…?

そして、妄想は稀に現実になる。

いくつになっても忘れないでほしい。運命の相手とは、思わぬところで出会ってしまうものなのだと。

傷心旅行に発った及川静香は、素性の知らない男と恋に落ちる。

しかし彼は、大きな秘密を抱えていて…。

出会いから、別れまで、たった14日間の恋の物語。

◆これまでのあらすじ

静香(33)は「君は真面目でつまらない仕事人間だ」と元カレに別れを告げられ、二人で行く予定だったハワイへ一人旅に出た。

行きの機内で知り合った男と、ひょんなことからハワイ初日を過ごすことになり…。

急接近した二人は、その夜キスをした。


Day2, 2019年6月9日


8時15分、『ザ・リッツ・カールトン ワイキキビーチ』、その一室。

目が覚めたとき、静香は「ここはどこだろう?」と困惑した。

東京では感じることの少ない、まぶしい陽光。目をうっすらと開けて、天井から窓、その先の青空へと視線を移していく。

―ああ、私、ハワイに来てるんだ。

次の瞬間、アルコールのせいで曖昧だった記憶が蘇ってくる。

―旅の初日。私、出会ったばかりの男と…。

ハッとしてベッドの隣を見る。

しかし、そこには誰もいなかった。続いて、自分の体を見る。

日本から持参したパジャマをしっかり着こんでいた。お腹が冷えないように上着の裾をズボンに入れることも忘れていない。

そして、静香はようやく全てを思い出した。

キスはした。でもその先はしなかったのだ。

安堵と落胆が、同時に込み上げる。ホッとしたのは当然だが、心のどこかで少しガッカリしている自分に驚いた。

驚いたあとで、次はまた、新たな別の感情が芽生えていた。

自己嫌悪。

及川静香は、33年間、自分という人間と付き合ってきたからよく分かっている。静香は、その日に出会った名前も知らない男とキスをするような女ではないはずだ。

もしこれが、ハワイ…いや、旅の魔力だというなら、二度と旅行などしないだろう。それほどに自分が嫌になる。

昨日の悪夢を浄化させたくて、二度寝でもしようと寝返りを打ったとき、部屋のチャイムが鳴った。

「…はい?」

ドアに近づいた静香が日本語で尋ねると、ドアの向こうから英語が返ってくる。

「Good morning!」

慌てて、脳内を英語にスイッチする。

『すいません。ルームクリーニングなら、もう少し後で…』

だがドアの向こうからの声は、今度は日本語だった。

「そろそろ起きてよ。ハワイ2日目、寝てるのはもったいないよ」

優しく、落ち着いた声。…あの男だ。

静香は慌ててパジャマの裾をズボンから出して、ドアを開ける。

ドアの向こうにいた男は、静香を見るなり笑った。

「パジャマ!?」

クシャッとした笑顔は、昨日のままだ。

この記事へのコメント

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No Name
小説だからアリだけど、現実はこれはかなり危険。
素性も知らない異性と海外で火遊びはハイリスクすぎる。
2020/03/15 05:1799+返信10件
No Name
パジャマをきっちりズボンに入れる静香、好き。
2020/03/15 05:3299+返信5件
No Name
まさか、ディナーもお部屋代も静香の部屋付けにしてトンズラしないよね。
2020/03/15 05:5481返信5件
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