『絵麻ちゃん、今日はパパが迎えに行くって。あざみ野何時着?』
仕事中にママからLINEが入り、今日はパパの誕生日だと気づいて、到着時間を知らせた。
日頃から、仕事は残業しないと決めているし、絶対に定時に帰れるよう仕事の量も調整している。私の人生にとって、あくまで仕事は二の次なのだ。
『あざみ野うかい亭』の2階でお庭を眺めながらデザートを食べ、頭の中では、明日のデートで彼氏と会う服のコーディネートを完成させていた。
するとパパが、不意に問いかけた。
「来年はオリンピックイヤーだし、絵麻も結婚しちゃうかもなぁ。いい人いるんだろ?」
返答に困り、笑ってとぼけた。確かに今彼氏はいるが、付き合ってまだ2週間だ。
「そうよ、絵麻ちゃん。素敵な彼がいるなら会わせてちょうだい」
「どんな人なんだ?絵麻みたいな美人さんなら、選びたい放題だろう?」
パパの親バカ発言を受け流しながら、その場から逃げ出したい気分だった。
確かに私は、自分で言うのもなんだけど、かなりモテる。食事会では一番人気、会社にもファンは多いし、狙った男性はこれまでかならず落としてきた。
だけどー。
それもあくまで「交際前」まで。
実は、大人になってから3ヶ月以上続いた彼氏がいないのだ。ひどいときは2週間で別れてしまうパターンもあるだなんて、親にはとてもじゃないけど言えない。
…そしてその原因は、自分でもわかっていた。
そのとき、ふとスマホを見ると、彼から連絡が入っていた。
『エマちゃん、明日楽しみだね☺️恵比寿のお店、20時に予約してるから仕事終わったら連絡して』
◆
翌日、私は予約した店ではなく、彼氏のマンションに向かっていた。
パーソナルジムの経営をしている彼氏・倫也の家は、渋谷区東にある。近くのコンビニで彼の好きそうなアイスと、自分用の缶ビールを数本買い、合鍵で部屋に入った。
付き合ってすぐ鍵を渡すことはないと言っていた倫也。だが、そんな彼におねだりしてなんとか手に入れたのだ。
合鍵を取り出すと冷んやりしていて、それが私をとてつもなく安心させた。
部屋に行くことは伝えていないけれど、たまっている洗濯と掃除をしてあげたら、絶対喜ぶに違いない。嬉しそうな彼の顔を想像するだけで幸せだった。
ビールを入れるために冷蔵庫を開けると、いつかのコンビニ弁当がそのまま押しこまれている。それらを処分したり整理していた私は、上の段に高級チョコレートが紙袋のまま入っているのに気がついた。
−もしかして、私へのサプライズギフトだったりして?
浮かれ気味で中身を見て、愕然とした。
『いつもありがとう』という女の子の可愛い字のメモが入っている。そしてその贈り主の名前は、彼の元カノの名前と一致したのだ。
私は冷蔵庫の中のビールを一気に飲み干すと、勢い任せに倫也に電話をかける。だが、彼は応答しなかった。
何度かけても出ないので、だんだん感情が抑えきれなくなってくる。
チョコレートを勝手に取り出すと、包装紙をビリビリに破いて、紙袋を床に投げつけた。最後に、元カノのメモをテーブルの目のつくところに置いた。
倫也は私と付き合いながら、前の彼女とまだ会っていたのだ。恐らく体の関係もあることは簡単に推測できる。
私は何かに取り憑かれたようにスマホを握りしめ、彼のFacebookページから、元カノの名前を探していく。
どのくらい時間が経っただろうか。ガチャリと鍵を開ける音がして、倫也が帰ってきた。
「エマちゃん!?なんでいるの?」
いるはずのない私の姿にぎょっとした後で、床に散らばったチョコレートの包装紙や紙袋を見て、口をポカンと開けている。
「え…?なんかあったの?」
そう言いながら部屋を見渡し、テーブルのメモを見て、全てを察したらしい。倫也の顔色はサッと青くなったように見えた。
「エマちゃん、ちょっと落ち着いて話をしようか。ほら、コーヒーでも入れるから…」
慌てて私をソファに座らせて、機嫌をとりはじめた。しかしポケットに入っていたスマホを何気なく見て、ようやく私からの20回以上の着信に気づいたようだ。
倫也の顔は、引きつっていた。
「ねぇ!これって、元カノの名前だよね?まだ彼女と切れてなかったってこと!?」
「いや、確かに元カノなんだけど、今は完全に友達だし、絵麻の心配するようなことはないってば…」
彼は私を必死でなだめようとしている。だが、私は勢いよくまくし立てた。
「友達だなんて、嘘をつくならもう少しマシな嘘にしなさいよ!私を失いたくないなら、そんな顔してないで言うことがあるんじゃないの?」
すると彼は、深いため息をついてから、こう言った。
「ごめん…俺、ちょっとこういうの無理だわ」
「…え?」
「元カノっていっても、高校時代に付き合ってた子で、今は本当に友達なんだよ。
あのさ、付き合って1週間で合鍵ねだられた時から、うすうす気づいてたけどさ…。エマちゃんちょっとヤバイよ。俺もう付き合いきれないわ。お店はキャンセルしとくから、帰って」
なかば追い出されるような形で、彼のマンションを出た私は、はたと気づいた。
ーもしかして私…。またやっちゃった…?
そう、私の恋愛が続かない理由は、恋人に依存しすぎて、重いと言われ逃げられてしまうから。
大学生の時から何も変わっていない。
良かれと思ってやった行動が全部裏目に出て、最後はいつも暴走し、自爆する。そしてそれは、自分でも止められないのだ。
▶Next:3月7日 土曜更新予定
会社の同僚に誘われた食事会で、新たな出会いが…。
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この記事へのコメント
距離感おかしい。
親も娘をちゃんづけで呼ぶw