ひも結び Vol.2

ダメ男にお小遣いを与え続けるアラサー女子。働かない男に対しての本心は

朝の“運動”を終えると、ヒデはすぐさまベッドから飛び起き、上半身裸のまま脱ぎっぱなしにしてあったスウェットパンツを素早く履く。

そして、待ちきれないようなワクワクとした表情で、ぐったりと横たわる望美をけしかけるのだった。

「ほら、早く早く。いつまで寝てんの!」

望美ははだけたパジャマを胸元でかき寄せると、苦笑いをしながら「誰のせいで遅くなったと思ってるのよ」とつぶやき、のそのそとベッドから床に足を下ろした。

やっと望美が起きたことを確認したヒデは、ますます瞳を輝かせながら寝室の引き戸に手をかける。そして、「じゃーん!」と声を張り上げながら、一気に引き戸を開け放った。

「わぁ…!」

望美の口から、思わず感嘆の声が漏れ出る。

美しく盛り付けられたパン。彩り豊かなサラダ。丸みのある形に仕上がったオムレツと、カリカリのベーコン。イッタラのティーポットから溢れる紅茶の香り…。

12畳のLDKに置かれたダイニングテーブルの上には、完璧な朝食がセットされていたのだ。


ヒデはテーブルの前に立つと、186cmの長身が仰け反りそうなほどに胸を張りながら「どう?」と望美を見下ろす。

望美は目を丸くさせながら、改めてテーブルの上に所狭しと並んだ朝食を眺めた。

よく見れば、望美が最近気に入っている『トリュフベーカリー』の人気商品、白トリュフの塩パンまで用意してある。おそらく望美が寝ている間に、自転車で三軒茶屋まで買いに走ったのだろう。

それに気づいた望美は、クスッと笑いながら目を細めると、大きく手を広げてヒデをその胸に迎え入れた。

「ヒデ。えらいえらい」

望美に抱きしめられながら、ヒデは切れ長な目を猫のように細め、満足そうに微笑む。

「嬉しい?望美さん、俺と全然出かけてくれないからさ。今日は家でbillsみたいなすげーブランチ作ろうって思って頑張ったんだぁ」

「ありがと。だって、ヒデってただでさえ目立つんだもん。並んで歩きたくないよ」

「そう?そうかぁ。イケメン過ぎるとそういう弊害もあるのかぁ」

神妙な顔で望美の言葉に反応するヒデを、望美はわざとらしく白い目で見ながらため息をつく。

「はぁ、自分で言うかなぁ…。とにかく、ごはん作ってくれて嬉しい。いただきまーす」

冗談の言い合いのようなやりとりだったが、望美の言葉は半ば本心だった。

ヒデの本名は、辻 英樹。26歳。役者の卵。

今はボサボサ頭に無精髭、さらに上半身裸というだらしない風貌をしているが、その顔の造形は驚くほどに端正だ。

とくに鋭い一重まぶたの目元には、人を魅了する不思議な熱を秘めているように思える。

望美は、目の前の若い男の美しさに改めて息を飲んだ。だが、そう思われていることを悟られないよう、煮出し過ぎて渋みのあるぬるい紅茶を一口すすると、ヒデに向かって話しかける。

「…で、こんな素晴らしいブランチを作ってくれたということは…。一体どんな目論見があるのかな?」

この記事へのコメント

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ヒモにたかられてるだけなのわかってるみたいだし、本人がいいんならまあ、はたがなんか言うことではないけどねえ…
2020/02/07 05:1299+返信11件
No Name
ヒデ、働いてますよね、専業主婦的な。美人で気が利いて料理できて、言うことないですよね。自分にお金あるなら対価としてお小遣いくらいあげたいです。
2020/02/07 05:5897返信4件
No Name
彼女は男嫌いだからヒモ男くらいが丁度良いって思ってるかもしれないけど、男性のほうに他に好きな女の子とかできたら面倒くさそう。

可愛さ余って憎さ100倍みたいにならなきゃ良いが。
2020/02/07 05:5374返信4件
No Name
まあ、働いてても、ハイスペックでもクズ男はいるからなあ。家事代行兼住み込みホスト兼用心棒だと思えば良いかも。
2020/02/07 06:4461返信2件
39
これ、男女逆なら違和感ないから、ヒモって差別だよね。世の中には収入がない女の人がたくさんいるわけだし。
2020/02/07 06:5428返信5件
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