サヨナラH Vol.9

2019年ヒット小説総集編:「サヨナラH」

一つの時代が、終わりを告げようとしている。

「M T S H  年  月  日」

書類などで、生年月日を記入する欄に書かれている「M T S H」の文字。ここに、もうすぐ新しい文字が加わるのだ。

「H」という、31年と少し続いた時代が終わろうとしている今、東京カレンダーでは「H」を象徴するようなエピソードを振り返ります。

あの日あの時、あなたは何をしていましたか?


2019年は、本当にありがとうございました。2019年ヒット小説総集編、「サヨナラH」一挙に全話おさらい!

第1話:“夫婦ごっこ”を終えた、37歳女の孤独な夜。離婚後の傷心を癒した、昔の男との思い出とは

平成が終わる2019年の今年、私の短かった結婚生活も終わりを迎えた。

4年間の結婚生活は、過ぎてみればあっという間で、「結婚の100倍大変」なんて言われる離婚さえも、簡単にあっけなく終わった。

どちらかに大きな落ち度があるわけでもなく、小さなケンカを繰り返すうちに、二人で一つ屋根の下にいる理由がお互いにわからなくなってしまい、その結果が離婚だったというだけ。

所詮、子供のいない夫婦なんてそんなものなのだろう。恋人同士の延長の、夫婦ごっこのようなものだったのだ。

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第2話:普通の女が“モテ女”に変貌した理由。金銭感覚が麻痺した彼女の、危うい私生活とは

手入れされた髪、メイクも丁寧で、ファッションもそれなりの物を身につけている。「綺麗になりたい」という熱意が、その外見からひしひしと伝わってくる。

…思わず、大きく頷いてしまいそうになった。まるで昔の自分を見ているかのようで。

20代前半。私も彼女たちとまったく同じ状況だった。いや、もっとどうしようもなかったかもしれない。

精一杯背伸びをして、見栄を張って。可愛くなりたい、愛されたいと願っていた。そのためには、“身の丈”になど合わせていられなかったのだ。

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第3話:32歳女が忘れられない、“友達以上恋人未満”の男。彼がmixiで連絡してきた危険な理由とは

25歳までに運命の人を見つけ、27歳には結婚して寿退社する。そんな未来が待っているだろうと思っていたのに…。気づけばメガベンチャーの広報部としてのキャリアを順調に積み上げ、勤続10年を迎えたのだ。

仕事は楽しいし、正当な評価も報酬も得ている。必死に働いてきたこの10年には誇りがあるのだ。この歳で未婚だったとしても、決してこの東京という街では珍しいことではない。

だが30代を迎え、次々と結婚していく友人や同僚、果ては後輩の結婚式に呼ばれるたびに不安や焦りが心を覆った。

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第4話:「毎日シャンパン、移動はヘリコプター」。熱狂的な16年前の六本木で、幸せを掴んだ女と消えた女の分岐点

「車寄せじゃなくて、エントランスの方にお願いします」

『フィオレンティーナ』でお茶をするため、「グランドハイアット東京」をタクシーで目指す。快晴で気持ちの良い今日は、テラス席でも良いかもしれない。

そんなことを考えながらタクシーを降り、空を見上げてみる。そこにそびえ立つシンボリックなタワー・六本木ヒルズができたのは16年前の2003年。

久しぶりに六本木に来たせいだろうか。いつもは何も感じないこの景色なのに、ふとあの日々が走馬灯のように蘇ってきた。

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第5話:「子供は欲しいけど、結婚はできない…」7年付き合った男が放った衝撃の言葉に、絶望した30歳の女

それにしても、せめてカットライムでも絞れば雰囲気の一つも出るが、自分のためだけにその一手間をかける気力は湧かなかった。

放り出した上着。脱いだままのストッキング。直飲みのビール瓶。気休めに手に取ったサプリメントのボトル。これが、あと少しで誕生日を迎える千花の瞳に映る全てだ。

42年前、両親が名前に込めた願いを、叶えることができなかった。

誰にも愛されずに迎える誕生日…。こんな日が来るなんて、全く想像していなかったのである。

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第6話:美人妻の黒歴史。有名“ママ”インスタグラマーとして聖母のように微笑む女の、SNS炎上覚悟の過去

—これ...もしかして...マユ...?

そこには、清々しい笑顔で2人の小さな男の子に挟まれ、赤ん坊を抱く女の姿があった。タグは「#3女誕生」、ついた「いいね!」は2,000以上。柔らかな栗色の髪に、自然で親しみやすい笑顔。すらりと長い美脚は、三児の母のものとは思えない。

しかしマユは、私の高校時代の記憶とは印象がまったく逆転していた。彼女だと気づくことができたのは、笑顔の端から少しだけ覗く八重歯だけが、女子高生時代“コギャル”を貫いていたマユの面影を残していたからだ。

第6話の続きはこちら

第7話:「リーマンショックの亡霊」に取り憑かれ、夫の年収が億から“1桁下がった”妻の悲劇

まだあれは、かずみが外資系金融業界で働いていた20 代の頃。

目を瞑れば、昨日のことのように記憶が蘇る。瞼の裏にはっきりと焼きついた、煌びやかでエネルギッシュな世界。 壁にかかった世界中の時刻を示す時計を見ているだけで、まるで自分たちが世界の中心にいるような錯覚に陥った。

だけど、ある日を境に、かずみの時計の針はピタリと止まってしまったのだ。2008年9月15日のリーマンショック。

世界中の経済に衝撃を与えた金融危機は、かずみというたった一人の女の人生にも、大きな傷跡を残したのだった。

第7話の続きはこちら

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