わたし、9時に出社します。 Vol.3

「女は、お茶汲みが当たり前だった…」総合職がなかった時代の話に、衝撃を受けた23歳女

「いい時代…?」

予想もしていなかった遠藤の言葉に、楓は首をかしげるしかなかった。

「そうよ、桜田さん。あなたを見て、女性も男性と同じように働ける機会が広がっているのだなって。私が就職活動をしていた時と大違いで、私はそうなることをずっと待っていたからとても嬉しいわ。」

「遠藤さんが、就職活動をしていた時、ですか?」

遠藤が、まるで昨日のことのように話し出す。

「さっき、入社32年目と言ったように、私がこの会社に入ったのは1987年よ。その1年前の1986年に男女雇用機会均等法が施行されたの。」

「現代社会」や「公民」でならった単語―男女雇用機会均等法。楓にとって過去の一法律でしかなかったが、遠藤はそれについて言及している。

「看護婦を看護師と呼ぶとか、スチュワーデスを客室乗務員に呼び方を変えるとか。でもね、いつの時代も、人々の意識なんてそんなにすぐに変わらないじゃない。」

遠藤が言っている「人の意識はすぐに変わらない」というのは、今の楓にとって痛いほど実感する思いである。

「その法律が施行されたとはいえ、私の時は男子は総合職だったのよ、今と変わらず。でも女子にはそういう肩書の採用区分がなくてね、一般職か中級職という名前だったわ。」

「中級職…?」

耳慣れないその単語に、思わず楓は聞き返すのであった。

「そうよ。最初から結婚後は寿退社をするつもりの女子たちは一般職に。そうでない女子たちは中級職に。なぜか女子は総合職ではなかったのよね。結局、出世スピードも男子とは違ったの。」

そこまで話すと、遠藤は寂しそうな顔をした。


「私は、例え結婚してもキャリアを重ねたいという思いがあったから中級職で採用してもらったの。今も働いてはいるけれど、予想通り同期の男性達とは異なるキャリアね。あなたの部の江本部長、私の同期ですもの。」

「そうだったんですね。」

ここまで聞くと、楓は遠藤さんの思いをなんとなく理解することが出来た。

「もちろん、江本は優秀よ。だから同期の中でも出世が早かったし。あと、私たちの中級職区分も女性総合職採用スタート年に廃止されたわ。」

一息ついた後に遠藤さんは言った。

「中級職でも一般職と変わらない業務、お茶汲みやデータ入力ばかりのこともあったわ。今の時代の新入社員は、最初から男性と同じスタート地点でいけるもの、羨ましいわ。」

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