あなたは、誰かにラブレターを送ったことがありますか?
文字に想いをしたためて、愛する人に贈る言葉。
手紙、メールやLINE…方法はいろいろあるけれども、誰かを愛おしいと思う気持はいつだって変わらない。
側にいる大好きな人、想いを伝え損ねてしまったあの人に向けて…。
これは、読むと恋がしたくなる切なくて甘い「ラブレター」にまつわる男女のオムニバスストーリー。
“台風のせいで、日本は週末まで雨らしいよ。帰国便ちゃんと飛ぶかな?”
心配性の夫からのLINEに、美希子の胸はちくりと痛む。いつもなら即レスする夫からのメッセージだが、今は返信する気になれない。
イスラエルでの2週間の出張は、明日で終わる。
散らかった部屋の荷物を集めて、スーツケースに詰め込まないといけないのはわかっている。しかし、先程上司から打診されたイスラエル赴任のことで、美希子の頭はいっぱいだった。
総合商社の審査部で働く美希子は、1年前に海外担当へ異動した。そのため1年のうち半分は、海外を飛び回る生活を送っている。
自分で希望した道とはいえ、慣れない土地で仕事を覚えるストレスは、相当なものだ。日本で待つ夫の献身的なサポートがなければ、とっくに挫けていたかもしれないと美希子は思う。
夫・裕介は、同じ大学の1つ上の先輩だった。異性にあまり興味のなかった美希子を、1年かけて口説き落としたエピソードは、当時の仲間内で今も語り継がれているらしい。
美希子は、外でのキャリアウーマンぶりとは裏腹に、プライベートでは相当手がかかる女だ。
疲れて家に帰ったときは、家事などする気になれないし、お風呂すら面倒臭くて、そのまま寝てしまいたくなることもよくある。裕介はそんな美希子を包み込み、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
教育系のベンチャー企業に勤める裕介は、勤務時間がフレキシブルに調整できるため、家事全般を担ってくれている。
帰国後はいつも和食が食べたくなる美希子のために、今回も何か作って待っていてくれているはず。まさに理想の夫なのだ。
「今までわがまま放題やってきた挙句、次は駐在夫になってくれなんて、…流石の私も言えないわよ」
時計を見ると18持、そろそろ時間だ。今日はイスラエル駐在中の先輩と食事をする予定になっている。
美希子は、散らかった部屋と夫からのLINEメッセージから逃げるように、そそくさとホテルの部屋を出た。
この記事へのコメント
今の時代女性の海外転勤に夫の帯同もアリですよね!?
実現するかはわかりませんが、諦めずに話し合ってみたいと思います。