未来Diary Vol.2

未来Diary~芙美子ver.~:39歳、仕事に邁進して男ナシの人生を選択した女の本音

「芙美子さん、ごめんなさい……」

慌てた様子で優愛が駆けつけたのは、それから10分ほど経ってからのことだった。

「優愛ちゃん、久しぶり。そんな焦らなくてよかったのに」

5年の月日が流れ、かつてはふっくらと可愛らしかった優愛が、少し痩せたのかシャープな印象を受けた。

いや、シャープというより疲れている、という感じだろうか。

あのあと人づてに、優愛は外資証券会社に勤める夫と結婚し、ベンチャー系の化粧品会社でマーケティングの仕事をしていると聞いた。

「…………」

2人の間に、沈黙が流れる。この5年という月日はあまりにも長く、お互い何から切り出していいのかわからない。

「…ねぇ、優愛ちゃん」

芙美子は言うか言うまいか悩んで、やっとの思いで切り出した。

「あの日、グラスの下にカード“B”を置いていったでしょう?」

優愛はその言葉に、大きく目を見開いた。

「私ね、あのときちょうど35歳になる直前で、本社のNYへの異動の話をもらっていて、すごく悩んでいたの。長く付き合っていた恋人もいたし、結婚と子供も諦められない。でも憧れの仕事だったから…。くじでも引いて、自分の人生を決めてしまおうかと思うくらい悩んでいた」

芙美子の「くじでも引いて」という言葉に、優愛は眉をぴくりと動かした。


「そのときに…ごめんね。退職後に、優愛ちゃんのデスクを整理していたときに出てきた“B”の日記を読んでしまったの。その冒頭には、こう書いてあった。

“でもこれで、いちいち人生に悩むことは不要。
それは悩める29歳の女性にとって、
何て素晴らしいことなんだろうー”

この言葉に、とっても共感したの。私はその頃、35歳を迎える前だったけどね」

優愛は何も言わなかった。というより、芙美子の突然の告白に、混乱している様子だった。

「そこから私は、カードBを自分なりに再現した。NY転勤の話を快諾して、仕事に邁進したの。恋人とは別れちゃったけど、仕事は楽しくて本当に幸せな日々だった。3年経って日本に戻ってきて、白金にマンションを買って1人で生きていく覚悟をしたわ」

そこまで言って、芙美子はぐっと腹の底に力を入れる。

「…でもね。でもそのあとずっと唯一私を支えてくれていた母が亡くなって、体調を崩してしまったの。もう何もできなくて、仕事にも行けないほど落ち込んじゃった。そのあと退職して、いまは充電期間」

淡々と話したつもりだったが、それが余計に辛さを引き立たせてしまうようで、向かいに座る優愛の目には涙が浮かんでいた。

そしてしばしの沈黙のあと、今度は優愛が切り出した。

「……私はちょうど3か月前、離婚が成立しました」

離婚、という言葉を聞き、彼女がげっそりしている理由がようやく分かったような気がした。そして優愛は続けた。

「私は、“A”の未来日記の通りの人生を歩みました。条件のいい夫と結婚し、実家近くに家を買い、転職して家庭中心の生活を選んだんです。“B”の日記のことなんて、すっかり忘れていた」

離婚したことは知らなかったが、夫婦生活がうまくいっていないことは、風の噂で何となく聞いていた。

「籍を入れる前、一緒に暮らし始めたときから何となく気づいていたんです。この人、何かおかしいかもって。

それで1回、結婚式の準備で喧嘩した時に、自分の気持ちをぶつけてみたんです。“少しでもいいから、私の気持ちを分かってほしい”って。そしたら彼、何て言ったと思います……?」

この記事へのコメント

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No Name
関係ないけど前回からもう1週間経っていることに愕然とした…
2019/09/20 05:1099+返信2件
No Name
こういう、テンポが良くて展開早いおはなし面白い!次ぎどうなっているか 楽しみ。
2019/09/20 05:5176
No Name
ぼーっと読んでいたから一気に5年後になってて驚いた!
2019/09/20 05:3359返信1件
No Name
週に二回連載があるのも面白いですね
2019/09/20 06:0427返信1件
No Name
次の五年後には二人とも幸せになってましたって展開なら良いのにね
2019/09/20 06:1827
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