未来Diary Vol.1

未来Diary~優愛ver.~:人生究極の“AorB”。1枚のカードが、29歳女の人生を変える

「優愛ちゃん?どうしたの、しかめっ面して」

約束時間きっかりに、芙美子が笑顔で近づいてきた。体のラインに綺麗にそった深い藍色のニットワンピースに、耳元の少しデザインがかったパールのピアスが、上品なコーディネートのアクセントになっている。

いつ見ても、美しい人だ。

芙美子は何事においてもセンスがよく、決断力もずば抜けている。入社当時から憧れの先輩で、仕事は抜群に優秀だが天真爛漫で可愛らしいところも好きだった。

だが一方とても慎重な性質で、滅多に人に心を許さない。プライベートにそこまで踏み込んだことはないが、決断力のある賢い芙美子は、こんな風に悩んだりはしないように思えた。

それとは対照的に、優愛は、20代後半からずっとこう感じていた。

―人生が、生きづらい。

本当にやりたいこと、したいこと、は潜在的にあるはずなのに。そしてその欲求は誰よりも強いはずなのに。

それと同時に、社会のレールから、世間から外れたくないという思いが人一倍強いのだ。この年齢になって、それはまるで強迫観念のようになって、優愛を苦しめているのだった。

きっとこんな気持ち、芙美子は抱いたことがないだろう。漠然とそんな風に感じていた。

芙美子が着いて世間話や仕事の話を軽くしたあと、優愛は思い切って切り出した。


「……芙美子さん、ごめんなさい。私やっぱり、マネージャーにはなれないかもしれません。彼にプロポーズされて…この仕事自体も続けられるか、悩んでいるから」

芙美子は、優愛の瞳をじっと見つめた。

「そっか」

そっか、と言ったあと、芙美子はアイスコーヒーを飲みながら、何かをじっと考えているように見えた。

「…残念だけど。それが、優愛ちゃんの出した答えなのよね」

そこまで言って、ふっと息を吐く。

大好きな先輩を、失望させたかもしれない。そう思うと心苦しかった。

「私を信頼して推薦してくれようとしてくださったのに、本当にごめんなさい」

そう言って優愛は、深々と頭を下げた。

「…ううん」

3年間お世話になった先輩はそう言って、優愛の言葉を受け止めた。それがあまりにあっさりしているように思えて、優愛は自分勝手ながらも、少しの寂しさを感じてしまうのであった。



芙美子は、次の約束まで時間があるからカフェに残る、と言った。優愛はもう1回深く頭を下げて、その場を去った。

―もう、後戻りはできない。

優愛のその後の行動は早かった。会社に退職の意思を伝え、健吾のプロポーズに“YES”の返事をしたのだった。

優愛はこのとき、選ばなかった一方のカード“B”をコースター代わりに置き去っていたことなんて、すっかり忘れていた。


▶Next:週2回配信!次回は、9月20日(金)更新予定
悩んでいるのは、優愛だけじゃなかった。芙美子のAorBとは?

この記事へのコメント

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No Name
嫁ぎ先が「呪いの家」とか相手が実は松川良輔みたいなのだと困るからフライングで仕事辞めちゃダメだよ~
2019/09/17 05:4099+返信1件
No Name
未来日記…なつかしい。
そして結婚か仕事かというのも今時ちょっと古い価値観ですね。
2019/09/17 05:1295返信14件
No Name
東カレ、29歳好きすぎ 笑
「女はクリスマスケーキ」からほんのちょっと変わっただけ。
もう令和やぞ。
2019/09/17 05:5780返信6件
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