「地に足のついた」という表現がある。まさにそういうことなのだろう。経験を積むことの大切さを、彼女の言葉は端的に物語っている。
そして、今の自分を少し肯定することができるようになったら、欲も湧いてきた。役者としてスタートが遅かったことをむしろ逆手に取り、観る人を驚かせることができたらと、闘志を燃やしているようだ。
「32歳は、結婚して、子どもがいてもいい年齢なんだろうと思います。でも、今そっちに舵を切ってしまったら不完全燃焼になってしまう。私は仕事で求められる人間になってから家庭を持ちたい」
語気が強くなった。それに気づいたのか、中村さんは「自分でもこんなことを言うなんて思ってもいませんでした」と照れたように笑った。
恐らく日頃からよく考えているのだろう。彼女に会うと、今より未来を見据え、切磋琢磨しているような印象を抱かされる。その感想を伝えると、「一見、考えてなさそうに見えますけどね」と悪戯っぽい表情で前置きし、再び言葉を継いだ。
「学生時代にチアリーディングのキャプテンをやっていたからかもしれません。
大会の前ともなると、常に周囲の状況を確認し、どんな技に挑むか、力量が足りなければ、見切ってどうするかばかりを考えていましたし。それに比べると、今は頭を使わなくなりました。だから、気配りができる方を尊敬します。
例えば、ドラマ『集団左遷!!』で共演した香川照之さん。撮影が遅れていて、現場がピリピリしているときほど、若手のスタッフをいじって、全員の肩の力を抜いてくれた。それを見てしみじみ思いました。
求めてもらうためには、やっぱり人間力。大人になれば、外見より内面を磨かなければいけないんだな、って」
かつては、モテたいという気持ちで外見にとらわれた。そして今は、「料理をしたり、部屋を片付けたり、丁寧に暮らすことが女性らしく、本当の色気をもたらすのではないか」と中村さんは言う。
「物がありすぎると心が乱れる。ハイブランドのブティックのように、洋服は適度な間隔で収納する。『片づけられる人は、うまくいく。』でしたっけ。そんな本もたくさん読みました。まあ、なかなか実践できませんけどね(笑)。
でも、目の前にあるモノやコトから目を背けず、受け入れるだけでも、心の持ちようはずいぶん変わるのだという実感は持てるようになってきました。
不安定な仕事だから、将来に対してもちろん不安を抱かないわけではないけれど、結局は自分が人としてしっかりしていなければ活躍できるはずがない。歳をとればとるほど、きっと」
そう話す中村さんの顔つきは清々しかった。2年前の彼女を思うと確実に一皮むけた感じがした。
そこには一切の媚びはなく、30歳を通過した等身大の女性がありのままの気持ちを吐露しているだけのようだった。その素直さこそが中村アンの強さであり、支持を集める絶対的な要因なのかもしれない。