東京ワーママ戦線 Vol.1

東京ワーママ戦線:人生「勝ち組」なはずなのに…。“幸福な妊婦”28歳女の、出産後の憂鬱

ワーキングマザー。

それは働きながらも子育てをする母親の総称。

独身を謳歌するバリキャリ女子でもなければ、家で夫を待つ専業主婦でもない。

“母親”としてだけでなく、1人の働く女性としてキャリアを積みたい、と願う女性たちのことである。

だがそんな彼女たちに待ち受けるのは、試練ばかり。

青山にある専門商社に勤める、桐本翠(28)も、ワーキングマザーとなった1人。

数多の試練を乗り越え、母として、女性として輝くためには―?


「翠の復帰、みんな待ってるから!元気な赤ちゃんを産んでね」

今日は、会社の最終出社日。

最終出社日といっても会社を辞めるわけではなく、明日から産休に入り、1年後に職場復帰する予定だ。

翠は、会社の同期たちに手を振りながら笑顔で応えた。

「ありがとう!」

持ちきれないほどのお祝いの品をタクシーの後部座席に運び込み、大きくなったお腹を抱えるようにして、その隣に乗り込んだ。

タクシーが出発すると、翠は柔らかなシートに身を預けた。



今日は妊娠のお祝いをかねて、新宿のイタリアン『プレゴプレゴ』で同期たちが集まってくれた。

青山に本社のある専門商社に入社して、5年。営業として働き詰めの日々だったが、地元埼玉の病院で出産するため、明日からは久しぶりに里帰りする予定だった。

身体はいまのところいたって健康で、出産に対する不安要素は、ゼロ。

同期の中で誰よりも早く結婚し子どもを産む自分は、人生の一歩先を進んでいる、と信じて疑わなかった。実際今日だって、同期の女子たちは、誰もが翠に羨望の眼差しを向けていた。

帰りのタクシーの中で、翠は家に着くのを待ちきれずに、次々とプレゼントの紙袋を開けた。

ディオールのルームウェア、ティファニーのベビー食器……。どれも自分の描くマタニティーライフを飾るのには十分な品物だ。

翠はそれらを満足げに眺めながら、スマホの通話ボタンを押す。

「大樹? 今タクシーで帰ってるんだけど、荷物持ちきれないからマンションの前まで来てくれない?」

慌てて返事をする夫の声を聞いて、電話を切る。妊娠が発覚してからというもの、夫の翠への対応は、まるで“お姫様扱い”だった。

翠は満ち足りた気持ちで、窓に流れる東京の夜を眺めていた。

この時、東京でのこんな満足感を得られるのが最後になるとは、まさか夢にも思っていなかったのである。

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