港区モード Vol.7

One day:人生の行き先を失った男が見つけた、未来への切符の『簡単な手に入れ方』

港区には、モードな男たちが多数出没する。

スタイリッシュで、品があり、上質なファッションを纏う『港区モード』な男たち。彼らが街を歩けば、そこにドラマが生まれる。

この連載では、『港区モード』な男を目撃した人々に起こる、小さなドラマを紹介しよう。

港区で過ごすOne day。そこに現れるのはいつも…?



ITコンサル勤務 前田聡(32歳)の場合



学生時代が終わった。
遊び倒した記憶も、勉強漬けになった記憶もない。


ただ、終わった。

春の陽気に浮かびあがる汗は、焦りの匂いがした。



仕事にも慣れた7月。
YouTubeで『ボス』と呼ばれるロックスターがつぶやく。


「20代頑張らなかった奴に、30代への切符はないよ」


クーラーの効いた部屋で、あの時と同じ汗がでた。

もうだめだ。
もう、誤魔化せない。

この人の目は、本当のことを言ってる目だ。


行先はわからないけど、その切符を手に入れなくては。
その切符に書かれた、行先を手に入れなくては。




行先がわからない旅の準備は大変だった。
寝る間も惜しんで、人の2倍働いた。

ろくな恋もせず、休みもとらず、友達が離れても気にしなかった。

毎朝の満員電車が、僕に伝えてきたからだ。

「電車には定員がある。切符は、全員はもらえない」と。




それが目的じゃないときほど、それが叶うときがある。

あの汗を拭いたかっただけなのに。


やがて、僕は評価されはじめた。


どんどん出世して、大きな仕事を任されるようになった。

部下が増え、給料が増えた。

高級なスーツを着て、いいマンションにも引っ越して、

それでも、走り続けた。

行先がわからない僕は、途中で止まるべき停車駅もわからなかったから。


そして。

30歳になって、無機質な高級家具に囲まれた部屋で思う。


―嘘じゃないか。

どこへ行ったらいいか、全くわからなかった。

あるいは、もし彼が嘘を言っていないのだとしたら。


僕は、乗り遅れたんだ。

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