港区モード Vol.2

最後の男:「今日は帰らないでよ」ホテルのバーで口説いてきた男が、隠していた秘密

港区には、モードな男たちが多数出没する。

スタイリッシュで、品があり、上質なファッションを纏う『港区モード』な男たち。彼らが街を歩けば、そこにドラマが生まれる。

この連載では、『港区モード』な男を目撃した人々に起こる、小さなドラマをご紹介しよう。


人生の「最後の男」を探し求める千沙は、孝太郎と付き合いながらも最近は彼との関係にしっくりきていなかった。そんな時、渋々参加した食事会で知り合った男・向井と二人でバーに行き、熱烈に口説かれ、千沙の心も揺れ動いていた。


見かけのいい男からチヤホヤもて囃されて、嫌な気持ちになる女などいないはずだ。

ましてやその男は、ハードもソフトも完璧なのだから。

清潔感のある、整った顔立ち。外資系IT企業に勤務するエリート。そんな男から私は今『マデュロ』で、自分を賛美される言葉ばかりを並べられているのだ。

「千沙ちゃんって、本当に綺麗だね」「声も魅力的だよ」「指先まで色っぽい」

まるで何かに駆られるように、そんな言葉ばかりを発する向井。

少し恥ずかしいけど、止めてほしくない。自分を褒めそやされる言葉を聞き飽きることはないんだなと、私は浮かれる頭の片隅で冷静に考えたりもしていた。

「このまま、千沙ちゃんと朝まで一緒に過ごしたいな」

そう言って伺うように、向井がこちらに目を向けてくる。向井の綺麗な二重は涼しげで、少しの切なさが滲んでいる。

―あぁ、やっぱりこの人は、ずるい男だな…

私は、隠すこともせずに大きくため息を吐いた。

向井は、自分がモテることも、何をすれば女が喜ぶかも知っていて、肝心なことは自分からはっきりと口にせず、女に言わせるように誘導してくる。後腐れなく上手に遊ぼうとする、ずるい男。

―こういう人とたまに気晴らしするくらいが、ちょうどいいのかな。

向井は、私が求めているような「最後の男」には、絶対になり得ないような男。だからこそ、変な期待をせずに済むのかもしれない。

何度も私の脳裏をよぎる孝太郎の顔をなるべく頭の外へ追いやるために、モヒートを多めに口に含んで、ゴクリと飲みこんだ。

私は、ぬけぬけとこの店に来てしまった自分を軽蔑する反面、庇おうともしていた。

孝太郎が冷たいから。孝太郎が寂しい思いをさせるから。孝太郎が…。

必死で言い訳を探していたその時、私の目にある男の姿が飛び込んできた。

―え、あれって…?

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