神に誓った永遠の愛を裏切った、元夫の存在
「旦那の不倫なんて、ありきたりでつまらない答えでごめんね」
離婚後、輝かしいキャリアを築いてきたが、シャンパンを飲むと、どうしても思い出してしまう。
記憶から消し去った10年前のあの日。
美月は、両者の印鑑が押された離婚届をバッグに押し込んで、ニューヨーク発成田行きのファーストクラスに乗っていた。早急に支払われたまとまった額の慰謝料を、さっさと使ってしまいたかったのだ。
シートに座るやいなや、ウェルカムドリンクで出てきたシャンパンを一気に煽った。即座におかわりを求めたときの、CAの驚いた顔が忘れられない。
美月はファーストクラスで完全に浮いていた。
精神的にも体力的にもどん底で、歩くことすらままならない。身体中に絶望的な負のオーラを纏い、泣き腫らした顔はあまりにも酷かった。
深酒し、CAに飲酒を止められたこと。
唐突に涙と嗚咽が止まらなくなり、隣の米国人のレディに慰められたこと。
爆睡してしまい、スペシャルな機内食を食べ損ねたこと。
思い出すだけで惨めになる。
14時間にも及ぶ長いフライトだ。このまま、飛行機が墜落したら楽に…なんて、不謹慎でありえない想像をしてしまうほどに美月は弱っていた。
3年前、夫の赴任先のニューヨークで始まった、華々しい結婚生活。
こんな風に終わるなんて、一体誰が想像しただろう。
夫は新しい女性と共にさらに高みを目指し、捨てられた美月はひとり惨めに帰国する。
あまりにも無惨で絶望的だ。
◆
あれから10年。今日、初めてシャンパンが美味しいと感じた。あの経験があったからこそ、こうしてキャリアを積むことができたのだと、ようやく思える。
美月は、威勢良くシャンパンのグラスを飲み干す。
「東京では、2分に1組の夫婦が離婚しているんだって。このシャンパンを飲み切るころには、一体何組の結婚生活が終わるのかしらね」
ぼんやりと空になったグラスを眺めながら、美月はそんなことをつぶやいた。
この記事へのコメント
え!?お前が言える立場か!?裕一郎!!失敬な!!(笑)