シュガー&ソルト Vol.2

新卒で夢叶わず、派遣社員となった高学歴女子。彼女が目の当たりにした“東京の格差”とは

「駅に向かう大通りを六本木方面まで歩くと、このタワーマンションが見えてくるから、迷うことはないはず。お客様より先に行って、エアコンをつけておいてね」

他のアポのため同行できないのだという営業担当に内見用の鍵を渡され、菜々子は一人で赤坂のタワーマンションの内見立会に向かう。

高揚感とともに部屋の鍵を開けた。地上33階からの赤坂、いや港区の景色は派遣社員の菜々子にとって衝撃的だった。青山霊園の緑が専用の庭のようだ。

ーここで毎朝起きる人がいるんだ……。

物件の高級感だけでなく、東京の格差社会を目の当たりにして、菜々子は息を呑む。東京がこんなにもピラミッド構造になっているなんて、学生のときは気づかなかった。


数日後、あの部屋に申込が入った。


申込書を手にすると、意識するわけでもなく、職業と年収の欄を見てしまう。「経営者」「3,000万」。そのあとで、そっと身分証のコピーを見た。

ーああ、やっぱり、あの人だ。

内見立会のあの日、エレベーターの位置が分からずあたふたする菜々子にふっと笑みを漏らしたあの男性が写っていた。

3か月後、契約期間最終日の出来事


ーわたし、なんで福岡に帰らなかったんだろう。

最終出勤日となった今日、帰り道にあのタワーマンションを遠目に見ながら、菜々子は考える。

最後だからと、お昼に配属先の社員が『赤坂 金舌』に連れて行ってくれた時、ふと地元に帰る気はないの?と聞かれ答えに窮してしまったのだった。

東京に残った理由は自分でもわからない。

赤坂駅の改札のそばで広告業界の人らしい、華やかな女性たちとすれ違う。ミキによく似ている人がいて、思わず振り返った。


ーミキはどんな生活を送っているんだろう。

「会おうよ」とLINEは何度か来ていたが、大手化粧品会社に就職したミキとは会いたい気持ちにどうしてもなれなかった。

菜々子は派遣社員となってからめったに新しい服を買わなくなり、お昼はお弁当を持参する生活を送っている。今日は久しぶりの外食だった。

ーもうミキとは話も合わなくなってるのかな……。

菜々子は改札をくぐり、松戸行きの混んだ電車に乗る。餞別にもらった花束を体に引き寄せた。

来週からは赤坂を通り過ぎて、表参道の外資系アパレル会社へ行くことになっている。派遣社員ではあるが、次は休職中の社員のつなぎではない。正社員になれるチャンスがあると聞いていた。

これを、最後の花束にできるだろうか……。ピンクのガーベラが菜々子の目には眩しすぎた。

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