噂の女 Vol.6

「キス、する…?」1か月ぶりのデートで突然囁く美女。我を忘れた男が過ごす、禁断の夜

亜希子の想い


「最近、爽太郎が冷たくなった気がする…」

23時、赤坂にある『タカザワバー』で、「悪いけれど今日はちょっと」という彼からの素っ気ない返信を見て、私は大きなため息をついた。

少し前までは仕事帰りに軽く飲むこともあったのに、近頃仕事が忙しいらしく、誘っても断られてばかり。

気づくと彼のことばかり考えてしまうのは、半年前に彼氏と別れて、そろそろ一人に飽きてきたからだろうか。それとも仲の良い友人たちが次々と結婚を決めているからだろうか。

でも、1番の原因は分かっている。春瀬紗季という謎の女に、爽太郎を取られそうだからだ。

いや、もしかするともう、爽太郎は彼女とうまくいっているのかも知れない。だから彼は最近、冷たいのだろうか。それ以上を考えるのが嫌になり、ビールをもう1杯頼む。

思い返せば爽太郎と出会ったのは10年前。きっかけはよく覚えていないが、共通の友人が何人かいて、皆でワイワイと遊ぶうちに仲良くなった。

気さくで面白く、飄々と涼しい顔をして何でも器用にこなせる彼は、男女ともに友達が多かった。だから、彼が就職先を「政治家秘書」に決めた時には驚いた。

「自分の恩人である先生のもとで働きたい。そして将来は、自分も政治家を目指したい」

いつもどこか少し冷めていて、あまり自分の意見を主張しないタイプなので、これほどはっきりと彼の意志を聞くのは初めてだった。

そんな彼のことを、私はずっと気になっていた。

実は昔、一度だけ爽太郎を試したことがある。

「ねぇ、キスしちゃう?」

大学3年生の夏、皆で花火をした帰り道。私と爽太郎は皆の輪の中から二人だけポツンと離れ、歩いていた。


ちょうど付き合っていた彼と終わりを感じていた頃で、酔っていた私は、少しだけ大胆になり彼の手をそっと繋いだ。少し冷たく乾いた空気が彼の体温をより一層に感じさせ、衝動的にそう尋ねてみたのだった。

「そうだな…」

けれど爽太郎の返事に被せるように、前を歩いていた仲間の一人が彼の......


【噂の女】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo