実家暮らしの恋 Vol.8

「彼女の、どこが好きなんですか…?」24歳の後輩女が男に仕掛ける、同棲カップルを別れさせる為の策略

恵美理のもくろみ


「彼女が頑張り過ぎる?いいじゃないですか、それで。ご飯も旨いし、色々家事もやってくれて助かるんなら」

池田の言葉に、圭介がなんとなく釈然としない表情になったのを恵美理は見逃さなかった。先ほどから愚痴っぽくなっている圭介の表情を、恵美理は一瞬たりとも見逃さないよう注視している。

恵美理は、今日も圭介と池田と飲みに来ていた。圭介が「実家暮らしの彼女」の愚痴をこぼし始めたので、「大変なんですね…」と同情する振りをしてお酌をする。

―圭介さん、やっぱり同棲うまくいってないんだわ…!

圭介が同棲を始めたと聞いたときは、もう終わりだ、と恵美理は少なからずショックを受けていた。しかし2人の間が順調でないと聞いた今、まだ粘れると俄然やる気が湧いていた。

―そんな身の回りのこともできなさそうな女と、圭介さんが長く続くわけがない。どんな言葉を放り込むのが、一番効果的だろう。

恵美理が密かに策を巡らせていると、池田がいつものように圭介に合いの手を打つ。

「じゃあ、何が不満なんですか?」

うーん、と少し思案した圭介は言った。

「最近、俺の帰りが遅くて、家のことができてないんだ。だから俺の担当してる家事を、彼女が代わりにやってくれてて。彼女も前は結構残業してたのに、最近は無理して早く帰って来てるみたいで、どっちも上手くやりたいって力むあまりうまくいってない。

家の中が散らかっていることも多くて、思うような生活ができていないから、お互いちょっとイライラしてる。彼女に頑張り過ぎないでほしいけど、できてなかったらイライラするって…。自分のこと棚に上げて、ひどいよな」

恵美理は微笑みを作りながら言う。

「へええ、きっと彼女さん、大切に大切に育てられて、両立したり、適度にうまくやったりっていうのが、苦手でいらっしゃるのかもしれないですね」

「どうした恵美理ちゃん、トゲあるぞ~」

池田が茶化す。そんなことないですよお、と恵美理は池田に微笑みかけた。

「いや正直、恵美理ちゃんの言う通りなところもある。彼女、実家で大事に大事に育てられてきて、中々ぱっと決められなかったり、寂しさが増長して思い込んじゃったりする所があるんだよね…なんだろう、キャパがない、って言うのかな…」

―チャンス。


恵美理はすかさず口を開いた。

「…じゃあ…、圭介さんは彼女さんのどこが好きなんですか?」

恵美理は今夜たたみかけようと決めた。圭介がはっとした後、すぐに答えられない、という動揺の表情を見せたからだ。

帰りの電車。

酔って上機嫌な池田はJRに乗り、恵美理は圭介と2駅だけ同じ地下鉄に乗る。唯一の2人きりのタイミング。圭介が引っ越したのは、恵美理にとっては嬉しい誤算だった。

―あと1駅…。今だ!

「圭介さん、これ見てください」

恵美理が圭介に少しだけ体を近づけ、スマホの画面を見せた。

「圭介さん、彼女さんのお誕生日っていつなんですか?」

「再来月だけど…どうしたの?」

「これ、なんですけど。私が今通ってるお料理教室で、“恋人のためのサプライズクッキング”っていう企画があって…今度の週末なんです。もしよければ、行ってみませんか?会員以外の人を誘っていいっていうイベントで…。サプライズで料理してあげたら、すっごく喜ぶんじゃないかって思ったんです。勝手にすみません…」

恵美理はこう考えていた。

―彼女の手料理を楽しみにしていた圭介だが、家事の負担が多くのしかかっていることを負い目を感じているのは事実だろう。だったら、お返しとして自分が料理する。この企画には食いつくのではないか。

圭介は少し思案して言った。

「…そうかー。食事は彼女と担当だったけど、これを機に俺が何か作れるようになってもいいかもなあ。ありがと、恵美理ちゃん。詳細教えてくれる?」

―よし。

「もちろん!私もその日レッスン入れるかもしれないので、もし会えたら嬉しいです♡」

電車が、恵美理の降りるホームに滑り込む。

「じゃ、おやすみなさい♡」

地下鉄を乗り換えながら、恵美理の頭の中は週末の「作戦」でいっぱいになっていた。

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