姉は光、私は影
披露宴会場のグランドボールルームに移動すると、その顔ぶれの豪華さに息を呑んだ。新婦側の丸テーブルに、有名な弁護士や法律学者など、法曹界の著名人が座っているのだ。
それもそのはずである。姉は東大法学部卒、さらには在学中に旧司法試験を突破し、大手の法律事務所に所属する、渉外弁護士だ。その年収は、1,500万を超える。
だが、新郎も負けてはいない。新郎の圭一もまた、東大法学部卒の外資系戦略ファームに勤めるエリートだった。
それゆえ、招待客のほとんどが東大出身者なのだ。
凄い光景だわ、と白けた気分で眺めていたその時、「あっ」と声をあげそうになった。新婦側の招待客に、姉の元カレがいたのだ。しかも、2人。
-普通、結婚式に元カレを招待する…?
ドン引きしたが、天然魔性な姉ならあり得る、と思い直す。
思えば、姉には高校生ぐらいから常に男の影があった。男の支配欲をくすぐり「私、あなたしか頼る人がいないの…」と言いながら、男に甘える天才なのだ。
「超絶美人で優秀な女が、自分にだけ甘えてくれる」
錯覚した男たちは、次々と姉の手中にはまった。外銀男、医師、経営者…そういう男たちと散々遊んでおいて、30歳を目前にして、あっさり結婚を決めたのである。
彼女がかつて、私に言い放ったセリフがある。
「女にはね、男を『愛させる』義務があるの」
美貌、頭脳、キャリア、金、エリート夫。世の女性が欲しくてたまらないものを、いとも簡単に手に入れる。それが神崎桜という女だった。
一方の私には、そのすべてがないというのに。
「それではこれから、新郎新婦のプロフィールビデオをお流しします」
司会者の威勢のいいアナウンスとともに、姉妹写真が巨大スクリーンに写し出され、思わず顔をそむけたくなった。
写真は、姉が6歳、私が3歳の時のものだ。姉は写真のど真ん中で、桜の名に相応しい淡いピンク色のドレスを着て、にっこりと微笑んでいる。さながら西洋のお人形だ。
そして、その姉の後ろでまるで影のように佇んでいるのが、私だった。
-姉はいつもピンク色で、私は黒か灰色の服だったな…。
それだけではない。写真の枚数だって違っていた。赤ちゃん時代の写真が、姉は1,000枚以上あったのに対し、私は100枚にも満たない。
いつだって姉が主役で私は脇役。姉が光なら私は影。生まれた瞬間から、私たちには格差があったのだ。
「桜はこの頃からオーラがあったな」
「ほんと、別格だわ」
満足そうに頷く父と母の会話が聞こえて、私は「バカみたい。格付けしたのは、あなたたちでしょ」と心の中で罵った。
父・神崎真は東大在学中に司法試験を突破した渉外弁護士だ。小さい頃から、両親は私たちにこう言った。
「東大以外は大学じゃない」
「将来の職業は弁護士以外ありえない」
少しでも成績が悪いと容赦なく平手打ちが飛んだ。頬が真っ赤に腫れあがって、髪の毛でどうにか隠しながら学校に行ったこともある。
そんな毒親の期待通りに人生のコマを進めたのが姉で、進められなかったのが私だった。
そして、姉が名門女子中学校への合格を勝ち取ると…あろうことか、今度は彼女自身が"毒姉"と化し、あらゆる面で私を支配してくるようになったのである。
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