最後の恋 Vol.10

「俺…離婚した」真夜中の報告に心揺れる人妻。淋しさから近づく男女が、最後の恋に堕ちた夜

人はいつだって、恋できる。だが振り返ったときにふと思うのだ。

あのときの身を焦がすような激しい感情を味わうことは、きっともうない。あれが「最後の恋」だったのだ、と。

それは人生最高の恋だったかもしれないし、思い出したくもない最低な恋だったかもしれない。

あなたは「最後の恋」を、すでに経験しているだろうか…?

この連載では、東京に住む男女の「最後の恋」を、東京カレンダーで小説を描くライター陣が1話読み切りでお送りする―。

今週の主人公は、35歳・結婚10年目の菜々子。

菜々子は、瑞子と同じスポーツジムに通っており、彼女がプレイボーイ・新田と並んでジムを出て行く姿を、少し離れた場所から眺めていた。


菜々子:「私は絶対に、浮気なんてしない」


「どこに連れて行こうかな」

周囲の視線も気にせず浮かれた様子の新田。そしてその隣で身を隠すようにして歩く瑞子さんを、私は好奇の眼差しで追いかけた。

まさか、瑞子さんが新田の誘いに乗るなんて。

高校教師をしているという瑞子さんは、品行方正を絵に描いたような女性だ。服装もヘアスタイルも華美なものは好まず、モノトーンかアースカラーの装いしか見たことがない。

でも、と私は心の中でひとり納得をする。瑞子さんみたいな、男遊びと無縁そうに見える女ほど、裏じゃ実は…ってことも多いのよね。

私なら、新田の誘いになんて絶対に乗らない。私は浮気なんて絶対に…。

そこまで考えて、ふとトレーニングマシンを引く手が止まった。

−急に電話してごめん。菜々子に話したいことがあってさ−

昨晩遅く、電話口から聞こえた声が蘇る。

懐かしい声だ。「菜々子」と私を呼ぶ声があまりにしっくりと響き、戸惑いながらも胸がぎゅっと締め付けられた。

−…なぁに?DVD借りパクの件なら、もういいわよ−

動揺を悟られぬよう、上手な答えを必死で探した。

あはは、と同時に吹き出した二人の笑い声で、私たちは10年以上の月日を一気に飛び越えた。

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