2019.02.05
夫の異変は突然に Vol.1妻が感じた、夫の異変
「ただいまぁ」
ドアを開けながら大きな声で呼びかけたが、返事はない。
静まり返った玄関は、とても暗く、寒い。やけに陰気な空気が流れていて、まるで空き家のようだ。
−はぁ…。
重い荷物を引きずり、リビングに入ったあずさは、キッチンを見るなり大きなため息をついた。
朝淹れたコーヒーカップは机の上にそのままだし、食器や調理器具がシンクに散乱している。今朝は時間に余裕がなかったから仕方ないが、これらを片付けることから始めなければならない。
本来、雄太はいわゆる完璧主義で、若干潔癖に近いほどである。そのため、家は常に整頓されており、掃除も行き届いている。
夫婦は共働きであるが、生活費のほとんどを雄太が負担してくれているので、家事の大半をするのはあずさだった。
とはいっても、雄太も決して非協力的というわけではなく、彼は何より家が散らかるのを嫌うため、いつもだったら食事の後片付けやちょっとした掃除などは率先してやってくれるのだ。
−仕事で疲れているのに、これから家事…。ああ、しんどい。
どっと疲れが押し寄せてきたけれど、このままソファに座り込みたい気持ちをぐっと堪えて、寝室を覗きに行く。
「体調はどう?大丈夫?」
部屋は真っ暗で、暖房もついていない。一瞬、雄太はいないのではないかと思ったが、布団の形状から見るに、彼はベッドで寝ている。
そっと布団をめくると、ひどく顔色の悪い雄太が、ゆっくりと目を開けた。
「…おかえり」
朝と同じく、今にも消えそうな声で雄太は反応した。
「体調は良くなった?病院は行った?」
あずさが尋ねると、雄太は小さく首を振り、「ごめん…」とつぶやいた。
「食欲はある?」
「…うん」
雄太は小さく頷き、うっすらと笑みを見せたが、魂が抜けたような虚ろな表情だった。
うどんを作り終えた頃、そろそろ雄太を呼びに行こうとガスの火を止める。その瞬間、あずさは思わず「きゃっ」と叫んでしまった。
目の前に、雄太が立っていた。
が、その姿は、本当に足があるのか確認したくなるほど青白く、幽霊のような姿だったのだ。
「驚かせないでよ…。あ、うどん出来たから食べて」
机に座った雄太は、無言のままうどんを食べ始めたが、あずさはその様子に違和感を覚える。
普段の雄太は、行儀よく「いただきます」と手を合わせ、「美味しそう」とか「料理上手だね」と、必ずあずさを褒める。しかし、今日は何も言わずに食べ始めたのだ。
そして雄太は3分もしないうちに箸を置き、席を立つと、ごちそうさまも言わずに、寝室に戻ると告げた。
あずさがどんぶりの中を見ると、大量のうどんが残っている。
思わず、立ち去ろうとする雄太の腕を強く引っ張った。
「ねえ、食欲がないなら言えばいいじゃない。体調悪いのはわかるけど、気遣いとかないの!?」
あずさは、完全に苛立っていた。
一日働いて疲れきった体に鞭を打ち、食事の準備をしたというのに。いくら具合が悪いと言っても、感謝の言葉もないまま部屋に戻ろうとするなんて。
しかしそれでも、雄太は、か細い声で「ごめん…」と言っただけで、フラフラと寝室に戻って行ったのだった。
−まったく、何なのよ!?
本当は追いかけて文句を言ってやりたかったが、体調不良の雄太にそこまで言うのはさすがに気が引ける。
ー明日元気になったら、たっぷり文句言おうっと…。
そして、迎えた翌朝。
あずさが、相変わらず起きてこない雄太を起こしに行くと、雄太は布団に必死にしがみつきながら、こう呟いたのだ。
「会社、行きたくない…」
▶︎Next:2月12日 火曜公開予定
夫の非常事態。彼の身に何が起きているのだろうか。その真相は?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
状況がわかってないせいだろうけれど、あずさの思いやりのない態度にイライラしてしまった。
まぁ、来週から、メンタルやられた夫の世話する羽目になるんだろうけれど。でも、金銭的苦境に陥るまではいかないんだろうな、東カレだし。
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