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  • 「君といるとツラい…」。恋愛より仕事を優先する女が恋人から突きつけられた、甘くない現実

    バッグに手を入れて、機械的にスマホ画面を確認する。

    そこには、真美からまた食事会の誘いが来ていた。正直なところ、忙しい合間を縫ってまで食事会に行く理由が、最近は分からなくなっていた。

    だが理香は、この落ち込んだ気持ちを振り払うように、「行く」とだけ返事をするのだった。

    —1週間後—

    「じゃあ、まずは自己紹介しましょう!」

    男性幹事の声に、理香はいつものように笑顔を作った。

    「矢野理香です。港区にあるIT系の会社でデータサイエンティストをしてます。あまりご存知ないかもしれませんがSEでは…」

    「マジで?」

    SEではないですが、と続けようとした時だった。理香の正面に座っていた男が驚いたような声をだした。外資系マーケティング会社で働いていると言っていた高太郎(33歳)だ。

    「女性のデータサイエンティストっているんだ?しかもこんな美人で。データサイエンティストって、今人気の職業だよね。これからどんどん活躍する職業だと思うから、個人的にもかなり注目してるんだよ」

    皆がぽかんとしている中、高太郎はグイグイと話を進める。いつもは職業なんて理解してもらえない理香にとって、これは初めての経験だった。

    「じゃあ、あらためまして、かんぱーい!」

    6人全員の自己紹介が終わり、皆で乾杯する。それと同時に、待ってましたとばかりに高太郎は理香にいろいろなこと聞いてきた。なぜ今の職業を選んだのか、仕事の醍醐味は?など、何かの採用試験かのようにそれは熱心だった。

    そのせいもあって、最初は警戒していた理香も次第に心地が良くなり、気づけばこのセリフを言っていたのだ。

    「ねえ、バブル時代の味、味わってみたくないですか?」

    だがこのセリフに、高太郎のワインを飲む手が止まってしまった。

    —ああ、またやっちゃった…。

    つい1週間前と同じことを繰り返した自分に呆れながらも、先回りして必死にフォローする。

    「あ、ゴメンなさい。楽しくてつい、変なこと言っちゃった。気にしないでくだ…」

    「面白い!何それ、詳しく教えてよ」

    後悔したのも束の間、あろうことか高太郎は、さらに前のめりで聞いてきたのだ。

    嬉しくなった理香は、自分のバッグから「実はこれなんだけど」と、ちょうどサンプルとしてもらった『あの頃は CHOCOLATE』をテーブルに並べた。


    「へえ!AIを使ってチョコレートを開発したの?」

    「そう、『ダンデライオン・チョコレート』に協力してもらって。味は全部で5種類あるんだけど、一番のオススメは甘みが強めな『魅惑のバブル絶頂味』かな。『絶望のバブル崩壊味』は少しスパイシーで酸味があるから、男性はこっちが好きかも」

    理香の言葉一つひとつを真剣に、そして心から面白そうに聞いてくれる高太郎。

    「理香さん、楽しそうだね。俺、自分の仕事にプライドと情熱を持ってる女性って、尊敬できるから好きなんだよね」

    唐突にそんなことを言われて、理香の胸が大きく高鳴る。

    それとほぼ同時に、テーブルに広げたチョコを見て「これ、バレンタインで会社の部長たちに渡したら喜んでくれそう!」という真美の一言で、急に皆も会話に加わってきた。

    皆が盛り上がったため、高太郎との会話が終わってしまい、理香は残念な気持ちでチラリと彼の顔を伺う。

    すると、ちょうど高太郎と目が合い、照れ隠しのように同時に笑い合った。

    それは、二人で秘密を共有してしまったかのような、なんとも言えない甘さがあった。

    —Fin.

    理香が情熱を込めて開発した『あの頃は CHOCOLATE』の詳細はこちら!

    ◼︎撮影協力:ハイアット セントリック 銀座 東京『NAMIKI667』
    ◼︎衣装協力:P1 ピンクのニットワンピース¥24,000〈ソブ/フィルム03-5413-4141〉 P2 イエローのニットカーデ¥55,000〈アスペジ/アスペジ 六本木店03-5413-5699〉ネイビーの花柄ノースリーブトップス¥21,000 ネイビーのフリルパンツ¥36,000〈ともにリツコ シラハマ/ラタン703-6419-7871︎〉アクセサリー スタイリスト私物

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