2018.12.28
あの子が嫌い Vol.2上京してからというもの、私の人生はパッとしない。
地元では「かわいいリカちゃん」と呼ばれ、散々もてはやされてきたけれど。
私程度の女なら、この街にくさるほど居るー。
地元を飛び出し、憧れの人気女性誌への入社を果たした秋吉りか子(29)は、自分の"無個性"にウンザリする日々を過ごしていた。
そんなある日、中途で採用された一人の女が、りか子の前に現れる。ムッチリとしたスタイルに、やたら身振り手振りの大きな帰国子女。
りか子が虎視眈々と狙っていたポジションを華麗にかっさらっていき、思わず嫌悪感を抱くがー。
まるで正反対の二人の女が育む、奇妙なオトナの友情物語。
人気女性誌「SPERARE(スペラーレ)」で編集長の秘書として働く秋吉りか子。りか子は、編集部のポジションを手に入れるため必死で努力をするが、突然現れた“小阪アンナ”と名乗るぽっちゃり女子に、そのポストを奪われてしまう。
そのうえ、冷徹な編集長とやけに親しげなアンナ。 そんな彼女に、りか子は底知れぬ嫌悪感を抱くが―。
「秋吉さん、一体これはどういうことなの。」
朝一番、デスクの前に立ち、氷の視線を私に向けているのは、「女帝」と呼ばれ社内でも恐れられている編集長の高梨涼子だ。
どうやら私は、また彼女を怒らせてしまったらしい。目を合わせることも出来ず、小さな声で「申し訳ございません」と言うだけで精一杯だ。
そこに、聞き覚えのある不愉快に明るい声が響く。
「What’s going on?」
すると、編集長は視線をそちらへ向け、やたらと能天気なその声の主に駆け寄る。
「アンナ!」
突然トーンの上がった編集長の明るい声に、めまいがしてしまいそうだった。
―また、あの子!
「アンナは気にしなくていいの。この子ったら本当に使えないのよ。」
編集長は困ったような笑顔を、その女"小阪アンナ"に向けると、私がすぐ隣のデスクで立ち尽くしているというのに、それを気にも留めず堂々と話を続けた。
「スケジュール調整もミスしてダブルブッキング、ただ持ってくるだけのゲラにもコーヒーをこぼして読めやしない。しかも、毎朝のチャイラテもショットの追加を忘れるなんて…。取り柄のない子がSPERAREで働けるだけありがたい話なのに。仕事もまともにできないの。」
編集長が私の方にチラリと目線を向けた瞬間、背筋が凍った。
しかし、ダブルブッキングはスケジュールを無視して勝手に編集長が入れた予定だし、そもそもゲラのコーヒーの染みは編集部が慌てて私に渡そうとしてマグカップをひっくり返してしまったからだ。チャイラテのショット追加も、店員が間違えただけのこと。
その責任を一手に引き受けなくてはいけないのかと思うと、たまらず叫び出したくなってしまう。
「oh, Ryoko-san…」
そんな事情を知らないアンナは、本当に"気の毒に!"というような顔をして、編集長に飛びつき熱い抱擁を交わしている。
それから彼女はくるりと向き直り、ガツガツと下品なヒールの音を響かせてこちらに詰め寄ってくる。
「そんな簡単なこともできないの?意味がわからないわ、個性もない女は黙って与えられた仕事をしていればいいじゃない。高望みするから、mistakeするんじゃないの?」
そう言って私を見上げるこの女は、勝ち誇った顔をしていた。
一体、私が何をしたというのだろう。自分の夢を目指して努力してきただけなのに。
なぜこうもあっさりと、よく知りもしない他人に、夢も希望も、今まで必死に積み上げてきた実績さえ奪われなくてはならないのだろうか。
気がつくと、大声で叫んでいた。
「何も知らないくせに、何なのよ!個性がなくて悪かったわね!あとその気持ち悪い“ミステイク”の発音やめてよね!!」
◆
その大きな自分の声で、ハッと目が覚めた。
真冬だというのに寝汗をかき、ぜえぜえと呼吸は荒い。
「ゆ、夢だったの…?」
夢と現実の合間をさまよいながら頭を抱えていると、隣で小さな唸り声が聞こえる。
「何だよ、りか子…。土曜だぞ、頼むから寝かせてくれよ。」
その声で、ようやく現実に引き戻された。
「あっ、ごめんね、修一…。」
不機嫌な恋人が眠るベッドを見つめながら、私はため息をつく。
夢も現実も、今の私にとっては苦しいだけなのだ。
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