上京してからというもの、私の人生はパッとしない。
地元では「かわいいリカちゃん」と呼ばれ、散々もてはやされてきたけれど。
私程度の女なら、この街にくさるほど居るー。
地元を飛び出し、憧れの人気女性誌への入社を果たした秋吉りか子(29)は、自分の"無個性"にウンザリする日々を過ごしていた。
そんなある日、中途で採用された一人の女が、りか子の前に現れる。ムッチリとしたスタイルに、やたら身振り手振りの大きな帰国子女。
りか子が虎視眈々と狙っていたポジションを華麗にかっさらっていき、思わず嫌悪感を抱くがー。
まるで正反対の二人の女が育む、奇妙なオトナの友情物語。
チャイティーラテのグランデ、ショット追加でオールミルク。コーヒーショップでそれを受け取ったら、最後に必ずシナモンパウダーをどっさり振りかけてオフィスに向かう。
入社したばかりのころ、一度だけ同じものを注文したことがあったけれど、ブラック派の私にはその味の好みを理解することができなかった。
―こんな馬鹿みたいに甘い飲みもの、舌がおかしくなっちゃいそう。
先月移転したばかりの目黒のオフィスに到着すると、まずは編集長宛にどっさり届いた郵便物の中から重要そうなものを選り分ける。
レセプションの招待状が3通、お歳暮が4つ、クレジットカードの明細が2通。
編集部から届いたゲラのポストイットが一枚たりとも剥がれ落ちないよう、気を配ることも欠かさない。
それから毎月第一月曜日には「SPERARE(スペラーレ)」の最新号を添えて、それらを編集長のデスクにきちんと並べ、駅前で買ったチャイラテを置くところから私の一日は始まるのだ。
「SPERARE(スペラーレ)」はイタリア発の人気女性誌だ。4年前に日本に上陸し、華やかで上品なファッションやメイク、ライフスタイルやグルメ情報を紹介している。
今は月間3万部ほどだが、徐々にファンを増やし売り上げは右肩上がりである。
かつて私は、地元の百貨店の冴えないアパレル販売員だった。平坦な日常に終止符を打つため上京し、やっとの思いでここに転職したのは3年前のこと。
ライターとしても編集者としても経験のない私は、多少ファッション業界の知識があるということで、編集長の秘書としてのポジションを与えられた。
しかし、憧れだけで飛び込んだ人気女性誌の世界は、想像していたものとはかけ離れた世界だったのだ。
この記事へのコメント
でもねえ、おしゃれな雑誌を作る人、ってのはそこに載るモデルさんじゃないんだから、ぽっちゃりとか関係ないと思うよ。
「きれいだけど頭悪そう」とか逆に「いくら◯ができてもあのご面相じゃ」とか言って自分を優位に置こうとするのはあまり美しくない。
秘書だって誰にでもできる仕事じゃないし
(私には無理)適正ってあるよね。