美しいひと Vol.14

彼の好きな人ってまさか…?憧れ続けた男の心を奪い去った、“圏外女”の正体とは

「…遅いわけないだろ」

すべてを言い終える前に、不意にこちらを振り向いた俊介から抱きしめられた。

力強い腕と、薄手のニットから伝わる体温にホッとして思わず涙が出そうになる。

「俺はずっと…麗華がそう言ってくれるのを待ってたんだ」

頭一つ分背の高い俊介の声が頭上で聞こえる。その響きから、私はお互いが同じ想いで今ここにいることがわかった。

−戻ることができて良かった…。

俊介の腕の中で私は繰り返しそう思い、ようやく自分の“居場所”を見つけた喜びをかみしめる。

そして私たちは、まるでお互いの存在を確かめるように、しばらくずっと抱き締めあっていた。

恋敵からの新情報


「まさか、麗華に誘われるとは思わなかった」

シフトのない週末に待ち合わせをしたハイアットセントリック銀座のオールデイダイニング『NAMIKI667』で、テーブルに着くなり花音はそう小さく呟き、こちらをチラと睨んだ。

といっても、その目に以前のような嫌悪は滲んでいない。むしろ俊介の一件で仲違いをしてしまう前…普通に仲の良い同僚だった時にもなかったような、ある種の連帯感のようなものさえ感じる。

女友達というのは一度喧嘩してしまったら終わりだと思っていたが、相手によってはぶつかってから始まる友情もあるのかもしれない。

「…ありがとう、が言いたくて」

なんだか照れくさくて小さな声になってしまったが、私は素直な気持ちを彼女に伝えた。

「花音のおかげで俊介と仲直りできたから。…あの時花音が叱ってくれて目が覚めたっていうか。だから…ありがとう」

俯きながら言い終えて、顔を上げる。すると今度は花音の方が慌てて目をそらした。

「別に私、感謝されるようなことなんか…ただ、思ったことを言っただけ」
「うん、知ってる」

視線を合わせぬまま、お互いに小さく笑う私たち。そうしてそのあとは、また以前のように他愛のない話で盛り上がったのだった。


「ねぇ、そういえば。俊介と喧嘩する原因になった、麗華が『マデュロ』で一緒だった男って…アナウンサーの平塚って人なんでしょ?」

2杯目のグラスが空になる頃、花音がふいに私に顔を近づけて囁いた。

私にとってはあまり思い出したくない出来事だが、嘘をついても仕方がないので「ああ…うん」と曖昧に頷いてみせる。

花音は、私と平塚くんの関係を何も知らないはずだ。少なくとも私が彼女に平塚くんの話をしたことはない。

花音は一体、何をどこまで知っているのだろう。もしくは、本当に何も知らないのか…。

ひとり訝しむ私をよそに、彼女は特に表情を変えることもなく、私の知らない新情報を語り出した。

「私もね、最近まで知らなかったんだけど…ほら、先輩の岸さゆりさん。政治家の息子と婚約してるのは確かなんだけど、実はその平塚って人とも付き合ってたみたいで」

その話は、前に同僚たちの噂話で聞いて知っている。しかしこの後に続けた花音の言葉が、私を大いに驚かせた。

「…少し前にね、さゆりさんが明らかに落ち込んでる日があって。それで仕事の後に二人で飲みに行ったの。そしたら、さゆりさんが『大好きな人にフラれちゃった』って。好きな人ができたって言われたんだって」

−今、なんて…?岸さゆりが、振られた…?

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