黒塗りの扉 Vol.7

すでに罠に堕ちているのは、夫か妻か…。ジリジリと追いかけてくる、規則正しい革靴の音

東京のアッパー層を知り尽くし、その秘密を握る男がいる。

その男とは…大企業の重役でも、財界の重鎮でもなく、彼らの一番近くにいる『お抱え運転手』である。

時に日本を動かす密談さえ行われる「黒塗りの高級車」は、ただの「移動手段」ではない。それゆえ、上流階級のパーティではいつも、こんな会話が交わされる。

「いい運転手を知らないか?」

一見、自らの意思などなく雇い主に望まれるまま、ただ黙々と目的地へ向かっているように見える運転手が。

もしも…雇い主とその家族の運命を動かし、人生を狂わせるために近づいているのだとしたら?

これは、上流階級の光と闇を知り尽くし支配する、得体の知れない運転手の物語。

ようこそ…黒塗りの扉の、その奥の…闇の世界へ。

これまでのあらすじ


自らの手腕で成り上がった男・環利一(たまき・としかず)。利一は、新たに雇った運転手・鈴木明(すずき・あきら)の身辺調査を始め、その結果を別荘で彼に突きつけた。だが鈴木は、利一が雇っていた調査員・佐藤の存在にすぐに気づき、自身に関する情報を自ら佐藤に渡したと言うのだった。


「今すぐ佐藤さんにお電話されては?そして私が言っていることが本当かどうか、環さまご自身の耳と直感で…確かめられてはいかがでしょう?」

まるで自分の身の潔白を示すためのような、鈴木明の提案。その腹は相変わらず見えないままだが、利一は言われるまま従ってみることにした。

「そだね。そうさせてもらおうかな。明ちゃんは気にせず飲んでて。あ、音楽聞きたかったら、そこにレコードもあるし…適当にどうぞ」

そう言うと利一は席を立ち、調査員の佐藤に電話をかけるためリビングを出た。出たと言っても、ドア1枚を隔てた廊下。そのドアのほとんどは透明のガラスになっており、鈴木の様子を見張ることができる位置に立った。

―まあ、判断材料としての証言と情報は多い方がいいからな。

そんなことを思いながら、佐藤の番号を押す。数コールのうちに佐藤の声がして、簡単な挨拶を済ませた後に事情を説明し質問すると、佐藤は、いともあっさりと笑いながら言った。

「あー、もうバレちゃったんですねー。僕が鈴木さんと喋ったこと」

とりあえず、鈴木の言っていることが正しいということは、あっさりと分かった。そのあっけらかんとした悪びれない口調に、利一は思わずため息をつきたくなった。

―まあ、佐藤さんはこういう男だよな。

刑事だった時代は、自ら希望して数年かけて行う潜入捜査もこなしていたらしい。つまり悪の組織に染まることさえ楽しめてしまう男。

その度胸のせいか誰に対しても生意気で、媚びるということを知らない。それに怒って契約を切る客も多いと聞くが、利一は能力があれば性格など問題ないと考えるたため、今までそれが気になったことはなかったのだが。

「いつも完璧な仕事で随分助けてもらってきましたから、佐藤さんのことを全く信用してないってわけでもないですけど。もらった調査報告書、まさか鈴木明の証言のみで作りました?

もし俺にバレなければ、そのことすら黙ってようと思ったんですか?流石にそれはルール違反じゃないかなー」

リビングの中の鈴木に聞こえぬ程度の声で、利一は佐藤に問いかける。鈴木はこちらを気にする様子は全くないまま席を立った。どうやらレコードを見に行ったようだ。

スリルも駆け引きも嫌いじゃないが、よくもこう得体の知れない人物ばかりが周りに集まるものだと、利一はふと自虐的な気分になった。

―まあ、俺も人のことは言えないんだろうけど。

「環さん、僕がどんな人でなしであろうと、そんなことは絶対にしませんよ」

軽かった佐藤の口調が少し尖り、強くなった。利一が沈黙で先を促すと、すぐに続けた。

「利用できるものは全て利用しますが、この僕が…裏を取らないと思います?それに環さん忘れたわけじゃありませんよね?以前お伝えした“悪魔”ってキーワードのこと」......

黒扉

この記事へのコメント

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No Name
アキラが利一に、聡美から何度も自分に電話が来ていることをわざわざ言ってるのは何故??
彼のことだから確信犯だろうけど、利一を動揺させた上で、自分は困ってしまいます、雇い主様にご判断を仰ぎます、的なポーズ。ほんと底知れない。
2018/10/13 06:5732
No Name
はあああああー!朝から動悸がやばいー!!!
2018/10/13 05:3631返信3件
No Name
揺さぶりかけてきましたねー!!!
義母からの差し金?いやまさか…
2018/10/13 06:3419
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