女子力の呪い Vol.2

それはまるで、甘美な地獄。理想の結婚を手にした32歳の人妻をからめとる“女子力”の呪いとは

呪われた女の7年間


「萌美ちゃん。僕と結婚してください」

27歳の誕生日ディナー、最後のミニャルディーズと共にハリーウィンストンの紺色の箱が差し出されたとき、萌美の頭に浮かんだのはピンク色のお花畑でも祝福のファンファーレでもなく、

–ようやく、勝ち抜けた…

という安堵の気持ちだった。

3度目の食事の後「好きです」と言われたときも、
初めて二人で海外旅行に行ったときも、
横浜にある雅人の実家にご挨拶に行ったときも。

常に萌美の頭の中にあったのは、まるで何かに攻めたてられるような、形のない不安だった。

「結婚ゴールまであとどのくらい?」
「どうしたら確実に選ばれるのかしら?」

そのためにはもっと努力しなくては。

彼に愛されるよう、どんな時でもかわいらしく、気づかいとほほ笑みを絶やさずにいなくては。

彼のご両親に気に入られるよう、料理の腕を上げ、マナー教室に通い、“女子力”を上げなくては。もっと、もっと…

その血のにじむような努力がようやく身を結んだのだ。

水面に優雅に浮かぶ白鳥は、実はその水中に隠れた足で絶え間なく水を掻いているという。

30歳を目前にして、いまだに「いい出会いがなくて」と週2ペースのお食事会を続けている涼子のような女たちを見ていると、いい出会いとはチャンスの多さではないのだと思う。

–選ばれるための努力をするか、しないかの違いね…



そんな努力家な萌美がようやく手にした“理想の結婚”に暗い影が差しはじめたのは、自由が丘の新居への引っ越し、ハワイ挙式、国内での披露宴などひととおりのイベントを終え1年ほど経った頃だった。


―もう、夫とはしたくない

それは薄々気づいていたはいたが、見知らぬフリをしていた本心だった。

たぶん、夫が悪いわけではない。
ただどうしようもなく“もう無理”なのだ。

性格はおだやかで優しく「萌美の好きにすればいいよ」が口癖。学歴も収入も高く、女遊びにも縁がなさそうな雅人は、まさに理想の結婚相手だった。

心からこの人に選ばれたいと思った。
そのためなら、なんでもする。
その思いを「恋」と勘違いしていたのだ。

そして新婚生活のイベントがひととおり終わったあと、萌美は気づいてしまった。

早くも中年太りが始まった夫の、熱い吐息を間近に感じるたび、ふっくらした指に触れられるたび、首筋の匂いを嗅ぐたびに、肌がゾワゾワと粟立つことで。

私は夫が好きではない、と。

しかし雅人はどこまでも“理想の結婚相手”なのだ。

「今夜は疲れてて…そんな気分じゃないの」
「子どもはまだしばらく考えられないかな」

普通の夫婦ならちょっとした言い争いに発展しそうな萌美の主張にも、いつもの口癖で応じるのだった。

–そっか。萌美の好きにすればいいよ



そうして気づけば4年の歳月が過ぎていた。

なぜ萌美がこんな結婚生活を維持できたのか。
答えは、あまりにも簡単だ。

この記事へのコメント

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No Name
この若い男には選ばれたというよりは、大勢のうちの1人じゃない?
2018/09/11 05:5599+返信6件
No Name
夫としたくない人が多いねぇ。。
てゆーか、また不倫オチだったか。
2018/09/11 05:1899+返信6件
No Name
いつか夫にバレて天罰下ってしまえと思ってしまう私…。
2018/09/11 05:5299+返信12件
No Name
出口のない地獄って描写があるけど、旦那さんに何かを強要されてるわけでもないし、地獄感全くない気が...
生活の心配はないし、若い彼氏はいるし。
ただ思い描いていた生活と違うってだけ?
2018/09/11 06:2058返信1件
No Name
母親の影響ってほんと大きい。完璧な人なんかいないんだから、良きにつけ悪しきにつけ。
2018/09/11 05:4053
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