港区女子に芽生える違和感。元モデル・現ヨガ講師の運命を変えたのは「あの街」だった

初めての、代々木上原デート


―良ければ今度、飲みに行きませんか? 青山に行きたいお店があって。

和樹からLINEが入ったのは、賢介と食事した翌週のことだった。LINEを見て思わず笑顔になっている自分に気がつき、慌てて首を振る。

しかしそんな楽しみにしていた食事だったのに、当日後輩が急に熱を出し、ヨガのレッスン代行を懇願されてしまったのだ。

「ゴメンなさい、なるべく急ぎます!」

そう和樹に言ったものの、結局レッスンが終わったのは夜21時だった。

21時からガッツリ食べるお店へ行くのは気が引けるが、そうかと言って、せっかくの和樹とのデートも諦めたくない。

少し悶々としていた私に対し、和樹はさらりと別の店を提案してきてくれた。

「近所に、いい店があるんですよ」

そう言って和樹が連れて行ってくれたのは、代々木上原にある木のぬくもりと、人の温かさに溢れている『AELU』というお店だった。

いびつなのが、いい


「ワイン、好きですか? 僕のお気に入りのナチュラルワインがあるんですけど、それでもいいですか?」

「ナチュラルワイン!? も、もちろんです!」

店に入ると、和樹が早速ワインを勧めてきてくれた。


ナチュラルワインが流行っていることは知ってはいるが、滅多に飲む機会はなかった。

普段は港区の公式ドリンクと称される特定の銘柄のシャンパンか、派手なワインばかりだったから。

しかし和樹が頼んでくれたのは口に含むとふっと柔らかな香りが鼻に抜け、そして心地の良い優しい味を感じる物だった。

それは、今までとは何かが違う口当たりだった。

「わぁ、美味しい…」

隣を見ると、和樹は優しく笑っている。

このお店の雰囲気なのか、和樹自身なのか。それはよく分からないけれど、スゥッと肩の力が抜けている自分に気がつく。

こんな肩肘張らずに男性と2人で食事をするなんて、いつぶりだろうか。

そんなことを考えていると、早速料理が運ばれてきた。それらは全て、個性のある器に盛られていた。

「このお店の器、どれも素敵ですね」

「一点物の器って温もりがあるし、ちょっといびつな形が、またいいですよね」

――〝いびつさ〞が、いい…。

そんなことを言う人なんて、港区にはいなかった。

誰もが完璧な美を求め、少しでも何かが欠けているのは許されない。常に気を張っていないと、すぐに潰されてしまうから。

天井を見上げると、無機質なエジソン電球が吊るされている。


ふと、先日見たお店の照明を思い出した。高級そうな、完璧なまでに煌びやかに輝くシャンデリアだった。

「ヨガ講師って、どういうスケジュールなんですか? 健康になれそうでいいですよね!」

目をキラキラと輝かせる和樹に、私は思わず笑ってしまう。

大概の男性は〝元モデル〞という肩書きに興味を示した。その肩書きが外れてヨガ講師になった自分に対し、100%納得がいっている訳ではない。

時には〝売れなかったんだね〞、という哀れみの目で見られている気もしていた。

だから必死に楽しそうに見せて、偽りのキラキラを集めていたのかもしれない。

でも和樹は、そんなくだらないプライドなんて気にも留めていないようだ。

「和樹くんはどうしてアパレルに勤めているの?」

「元々服が好きだから立ち上げたんです」

「え…? アパレルって、社員じゃなくて経営しているってこと⁉」

拍子抜けして、思わず変なトーンの声が出てしまった。会社の名前を聞くと、私でも知っているような新進気鋭のブランドだった。

この記事へのコメント

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No Name
スタッズ付きの靴や鞄に吹いた (笑) 確かに最近よく見るし www
2018/08/28 06:4311返信1件
匿名
街並みや、好みの男性👨は、人それぞれの価値観…🙈
2018/08/28 06:126
No Name
ヨガ講師
友人にもいますが実際仕事として
どうなのか不思議です。
2018/08/28 07:146
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