恋と友情のあいだで~廉 Ver.~ Vol.7

「あの女だけは許せない」結婚前夜。新妻が年下エリート夫の“女友達”に感じる、危険な予感

妻の変貌


美月が変わった。

そんな風に感じたのは、『グランドハイアット東京』での披露宴を終え、シンガポールに戻って割とすぐのことだった。

「廉、今夜は早く帰れるよね?」

これまで束縛の類を一切しなかった美月が、僕の夜の予定を頻繁に確認するようになったのだ。

と言っても、彼女は僕の女関係を疑っているわけじゃない。

「ああ、うん。大丈夫」

玄関先まで見送りにきた美月に、僕はできる限り柔らかな声で答える。すると彼女は心の底からホッとした表情をみせ、ちょっぴり恥じらいながらも僕に念押しをするのだ。

「良かった。その、今日はあの日だから…お願いね」

−私、廉の子どもが欲しい−

結婚式のあと、美月から改めてそう言われた。

僕としてはシンガポール駐在を終え、日本に帰国した後の方が安心じゃないかと提案したが、美月は聞く耳を持たない。

30歳を過ぎた女はそんな悠長なことを言っていられない、というのが彼女の言い分だった。

決して嫌なわけではない。美月の気持ちも理解できるし、子どもができたらさぞ可愛いだろうとも思う。

しかし…批判を覚悟で言うが、僕はどうしても、彼女が少々神経質に毎朝体温を確認したり、今朝のように暗に夜の営みを約束させられたりすると、じっとりとした息苦しさを感じてしまうのだ。

だから、だったのかもしれない。

この日、約束通りまっすぐに帰宅する途中で大学サークル仲間から届いたLINEが、僕の胸を必要以上に踊らせたのは。


“今さぁ、いつものメンツで話してたんだけど”
“俺たちもうすぐ出会って10年じゃん?みんな集めて10周年パーティしようぜ!”
“廉の出張に合わせるから、予定決まったらすぐ教えて”

皆で集まって飲んでいるのだろうか。

テンション高めのメッセージに、僕は思わず頬を緩める。

−出会って10年、か。

もう、そんなに経つのか。感慨深く昔の記憶を辿ったら、ふと里奈と初めて言葉を交わした日のことが思い出された。

確かサークルの新歓コンパで、彼女の方から声をかけてきたはずだ。

−一条廉くん、だよね?−

あの時は、里奈の顔も声もその仕草も、僕に特段の感情を喚び起さなかった。

それなのに今となって当時を思い出すと、胸にどうしようもなく甘酸っぱい感情が広がっていく。

その正体が郷愁なのか、懐古なのか、はたまたただの逃げなのか、恋…なのかは、僕にはまったく見当もつかなかったが。


▶NEXT:8月14日 火曜更新予定
サークルの10周年パーティー。それが、里奈と廉を“共犯者”にするきっかけとなる。

この記事へのコメント

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No Name
美月を応援しなきゃいけないのはわかるけどどうしてもリナを応援してしまう。
まったく美月に魅力がない
2018/08/08 05:4599+返信11件
No Name
主役3人が誰ひとり好きになれない。
2018/08/08 05:2999+返信2件
No Name
男の言い訳「一線を越えていない」、女の怒り「その方がいっそ質が悪い」、ってのは昔読んだ森瑶子の小説にもあったな。その分きれいな心の結びつきが強いなんて、許せるもんじゃない。美月のじっとりぶりはうっとうしいけど、どう考えても不安にさせたレンが悪いわ。
2018/08/08 05:2099+返信6件
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