恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜 Vol.7

エリート商社マンの妻の座を勝ち取った“Bランク女”の変貌。31歳の花嫁が犯した唯一のミス

花嫁の威嚇


新婦は、私と視線が重なったことを確認すると、ゆっくりと微笑んだ。

自信、余裕、そして、優越感。

嫌な薄笑いだった。そこには、明らかに私に対する何らかの強い意思が含まれている。もはや威嚇と言っても大袈裟ではないはずだ。

「あれ?里奈、新婦と知り合いなの?」

この様子に気づいた未祐が、不思議そうに首を傾げる。

タイミング良く誓いの口づけに突入した廉と新婦を眺めながら、私は「知らない」と小さく答えた声が震えてしまわないように必死だった。


その後の披露宴で、私は柄にもなくすっかり動揺していた。

―あの女の意味深な笑顔は、何だったの...?

だが、新婦と目が合ったのはあの一度きり。

その後はむしろ廉がこちらの様子を気にかけているようだったが、新婦に監視されているような気がし、廉に目を向けることさえ躊躇われた。

そんな私の心境をよそに、披露宴は順調に進行していく。

大きなスクリーンに映し出された二人の生い立ちや、出会いからプロポーズまでの動画。会社の同期の一人が作ったそれはクオリティも高く、真っ当な幸福感に溢れていた。

「...31歳にしては綺麗だけどさ、やっぱり何か色々と中途半端な女だよね。廉くんはまぁまぁエリートだし、ぶっちゃけ、勿体なくない?」

二流の女子大卒に、メガバンクの一般職。類友である未祐の意地悪で率直な感想は、私のものと完全に一致している。

だが、廉のような男が彼女を選んだ理由は、おそらくその辛抱強さと包容力だろう。

美月という女は、自分の市場価値を重々承知のうえ、きちんと男への見返りも計算した賢い立ち振る舞いができるのだ。

そうでなければ、あの程度の女が商社マンの妻の座を手にするのはやはり難しいに違いない。

だが、そんな計算高い彼女が唯一犯したミスは、私への強い感情を隠し切れなかったことだ。

美月は先ほど私に向けた薄笑いとはまるで異なる、幸せな花嫁そのものの清らかな笑顔を廉に向けている。

「それでは、ウェディングケーキの入刀でーす!」

司会の女の明るい声とともに、Superflyの“愛をこめて花束を”が大音量で流れた。

皆に祝福され、幸せの絶頂を味わう新郎新婦。

そして、この爽やか極まりないこのシーンを眺めているうち、私の中にこれまで感じたことのない感情が生まれつつあった。

―もしも、廉の隣にいるのが私だったら...?

先ほどの動揺は、格下の女から威嚇されたという苛立ちへ、そしてそんな女への対抗心へと、次第に変化していったのだ。

しかし、その後まもなく、私たちが実際に禁断の領域へと足を踏み入れることになるとは、さすがに全く予想はしていなかった。


▶NEXT:8月8日 明日更新予定
廉と結婚し、幸福絶頂のはずの新妻・美月。しかし里奈への嫉妬心が彼女を蝕んでいく...

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
出たよ、「格下の女」呼ばわり。
何故東カレに出てくる女ってこうも揃いに揃ってマウンティングしたがるの⁉︎⁉︎
「自分の方が上」と思ってるの、あんただけだよ。
周りから見りゃ意外と大したことない。
そういうの外見や態度に出ますからね。
「勘違い女」のレッテル貼られて終わり。
自分だって側から見れば十分幸せなんだから、他人の粗探しなんてしないで純粋に祝ってやれや。
結婚式に大金注ぎ込めるだけの余裕ある
のに、心は貧しいんですね。
2018/08/07 05:3799+返信36件
No Name
結婚式で花嫁に睨まれるとか怖い。みんなおかしく思うよー。
美月も余裕無いだろうけど…。
他所の女と自分の旦那の何気ないLINEには腹が立つわ
2018/08/07 05:3399+返信3件
No Name
美月ミスったねー。そりゃあ逆に火ついちゃうよ。でも絶対、廉と別れなさそう。
2018/08/07 05:3199+返信2件
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