恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜 Vol.5

「俺と別れたら困るだろ?」ただの“浮気”では済まない。妻が絶望した、ハイスペ夫の冷酷な本性

モデル風の女に、熱い視線を送る私の夫


とある休日。

直哉は私の作ったタイカレーをブランチに食べ、これからジムへ行って出社すると言った。

「これ、美味い。やっぱ夏にカレーはいいな。リナ、ありがとう。土曜なのに一緒にいれなくてゴメンな。会社の繁忙期が終わったら、ヨーロッパ旅行でも行こうか」

直哉は美味しそうにカレーの皿を空にし、爽やかに微笑んだ。

これも私が料理教室で習ったレシピで、オーガニックのスパイスを厳選して調合し、栄養バランスも考えて夏野菜をたっぷり使ったものだ。

一緒に添えたハーブのサラダには、これも素材にこだわった手製のドレッシングをかけた。

「ほんと?ヨーロッパ、行きたい!」

「じゃあ、9月の連休あたりに休み取れるように頑張るよ。行ってきます」

そうして直哉は私の頰を軽く撫で、愛車のポルシェの鍵を手に家を出て行った。

詳しい車種は私には分からないが、以前からポルシェを好んでいた直哉は、最近新モデルに買い替えたばかりで、ちょっとした距離でも車を使う。

週末に夫が出社するのは特に珍しいことではなかったし、健康と仕事の効率向上のため、スポーツジムに頻繁に通っているのも事実だった。

そして、そんな休日にすでに慣れっこだった私は、午後は表参道のワインスクールへ出かけ、授業の後は仲良しの生徒たちと『TWO ROOMS GRILL | BAR』へ向かった。


夕暮れどきのテラス席は薄暗かったから、直哉も私も、しばらく同じ店内にいることに気づかなかった。

だが、おそらく化粧室にでも行こうとしたのだろう。その女が立ち上がったとき、私は無意識にそちらに視線を向けた。

長身のほっそりしたシルエットと、素人とは少し違うモデル風の立ち振る舞いが何となく目を惹いたのだ。

そして、彼女の華奢な指に優しく手を絡ませ、熱い視線を送っている男は、私の夫だった。


―直哉...。


何とも言えない冷たい衝撃が、私の全身を駆け抜けた気がした。

目を瞑ってしまいたいのに、どうしても視線を逸らすことができず、瞬きすらできない。

すると、直哉とバッチリ目が合った。

彼の方も、目を見開いてこちらを呆然と眺めている。

驚き、困惑、そして、焦り。表情がよく見えないにもかかわらず、夫の発する感情が手に取るように分かったのはなぜだろう。

その後、どうやって家まで帰ったのか、あまり覚えていない。

気づくと、広尾の家に戻っていた。

―どうして...?

真っ暗なリビングの中、私はこの単純な疑問に、一人でひたすら向き合っていた。

この記事へのコメント

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No Name
あのー、もしもし?ご自分は結婚したけど、昔の仲良しさんはほのかに自分を思いながらずっと独り身、なんて思ってらっしゃったんでしょうか?そんなにショック受けるようなことではないと思うんですけどね?
2018/07/24 05:2299+返信9件
No Name
男の言い分もビックリだけど、結局はヨーロッパ連れてってもらってるし、そもそも、自分だって夜に遊びまわってたんだし、同情はできないな…。
言っちゃ悪いけど、本当に似たもの夫婦だと思う。
2018/07/24 05:1999+返信5件
No Name
仕事はやっぱり辞めちゃダメだよ。逃げの結婚は上手くいくわけない。
2018/07/24 05:1999+返信9件
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