人生最大の選択
「真子、今夜時間取れるかな?この間のこと、話し合いたいんだ」
元カレの俊と食事した翌朝、圭一はそう言った。彼の真剣な表情に真子はドキリとする。
「うん…。分かった。私も話したいと思っていたの」
真子は圭一に、もう一度自分の気持ちを伝えようと思っていた。なぜ圭一が結婚式を嫌がるのか、きちんと聞きたかったのだ。
すると圭一は優しく微笑み、「良かった、朝から会議だからもう行くね!」と慌しく家を出た。
そして、その日の夜。
「ただいまー」
仕事を終え、20時過ぎに帰宅すると、すでに圭一が家に来ていた。
「あれ、なんかいい匂い…」
リビングに入ると、圭一がカレーを作ってくれていた。
「おかえり!お腹減った?久しぶりにカレー作ったよ」
圭一は料理が得意な訳ではないが、たまにこうしてカレーを作ってくれる。具をそのまま大きく残す、家庭的で温かみのある味が真子は大好きだった。
「嬉しい、ありがとうー!お腹ペコペコなの」
「良かった、いっぱい作ったから。着替えておいで」
そうして二人は食卓を囲み、「美味しいね」と笑い合いながらカレーを頬張った。
「真子…。この間はごめん!あんな頭ごなしに結婚式を否定したりして…。
実は僕の周りで結婚式をした奴らにさ、“あんな大変なこと、二度とやりたくない”とか、“結婚式なんて、喧嘩するだけでいいことがない”って聞かされていたんだ。実際その中の一人は、結婚式が原因で婚約破棄したって言うし…」
「そうだったんだ…」
真子はやっと、圭一があれだけ反対していた理由が分かり、少し安心した。
「でも…。実際は文句じゃなく惚気だったんだよな。それに、別れた友人は、元々お互いに不満があったみたいだし…」
「それなら…。初めからそう言ってくれたら良かったのに。私、何で圭一がそこまで嫌がるのか分からなくて、すごく辛かった」
真子の言葉に、圭一は少しバツが悪そうな顔をした。
「そうだよね…ごめん。真子に“人の言葉に左右されるなんて格好悪い”って思われるのが怖かったんだ。ただでさえ、お義父さんのことで失敗していたし。
けれど結局、そのせいで余計こじれてしまったね、ごめん」
真子は圭一の不器用さを、とても愛おしく感じた。
「真子。ハワイ挙式、考えてみようか。あのあと、僕なりに色々調べてみたんだ。そしたら結構良いのがあって…。打ち合わせもそんなに要らないって言うし。
真子は大勢呼ぶよりも家族や親しい友人とアットホームな感じが良いって言ってただろ?これなんか真子にピッタリだと思うんだ」
そう言って圭一が見せたのは、アールイズ・ウエディングのパンフレットだった。
Instagramで目にしていた、モアナチャペルのページを開きながら、真子は少し泣きそうになった。
「やっぱり…私のことを誰より分かってくれているのは、圭一だよね…」
真子のつぶやきが聞き取れなかったのか、圭一は笑顔で聞き返した。
「圭一…ごめんなさい。昨日…元彼の俊と会っていたの…。急に会社の近くまで来たからってご飯に誘われて…。でも、行くべきじゃなかった。ごめんなさい」
「……そっか」
圭一は真子がずっと俊を忘れられなかったことを知っている。それだけに、複雑な表情を見せた。