結婚。
それは女性にとって、人生を変える大きな分岐点である。
IT関連企業でコンサルタントを務める真子、29歳。彼女にも、その分岐点がついに訪れた。
幸せいっぱいな圭一との婚約。しかし真子には、アメリカに行くことを理由に別れた、忘れられない元彼の存在があった。
結婚式のことで言い合いになってしまった真子と圭一。そんなとき、アメリカにいたはずの元彼の俊と、サークルの飲み会で遭遇する。
「真子…久しぶり」
「俊…!?」
大学のサークル仲間との久しぶりの飲み会。そこに現れたのは、真子が忘れたくても忘れられなかった元彼の俊だった。
「どうしてここに?いつ帰国したの…?」
真子は、俊が帰国していたなんて、全く知らなかったのだ。
「仲いい同期に報告したら、今日集まるって聞いてさ…」
「そうなんだ…」
真子は動揺を悟られないように、少しぎこちない笑顔を浮かべた。
「あ、真子さ…」
俊は何か言いかけたが、言い終わらないうちに「俊—!」と呼ばれて男性陣の輪の中に連れて行かれ、結局その日はろくに話すこともなく、会はお開きとなった。
しかし帰り際、二次会に行くメンバーに別れを告げタクシーを呼ぼうとした時、急に誰かに腕を掴まれた。
「真子、会えて嬉しかった。電話して」
俊はそう言って、電話番号の書いたメモを渡してきたのだった。
◆
しかし真子から俊に連絡することは、もちろんなかった。彼とのことは、もう終わったことだ。
そんなある日の夜。残業をしていた真子の元に、知らない番号から電話があった。
—誰だろう…?
不審に思いながら出ると、真子の耳に懐かしい声が響いた。
「ひどいなー、なんで連絡くれないんだよ」
「え、もしかして俊…?なんで番号知ってるの…?」
突然の電話に動揺が隠せなかったが、彼は気にすることなく続けて言った。
「今さ、真子の会社の近くにいるんだ。食事、付き合ってくれない?」
「え…?ちょっと、そんなの困るよ」
真子がそう言うのも聞かず、俊は「じゃあ、『イル テアトリーノ ダ サローネ』で」と言って、電話を切ってしまったのだった。