2018.05.09
二人の間で揺れる花嫁 Vol.1結婚。
それは女性にとって、人生を変える大きな分岐点である。
IT関連企業でコンサルタントを務める真子、29歳。彼女にも、その分岐点がついに訪れた。
しかし真子の心には、小さなトゲのようにチクリと刺さる、忘れられない過去があった。
「僕と……僕と、結婚してください」
目の前に座る圭一は、真っ赤な顔をして恥ずかしそうに、しかし力強く真子に言った。膝の上に置いてある手はぎゅっと握られていて、肩は小さく震えている。
今日は、付き合ってちょうど1年の記念日。
圭一は、真子と同じ会社でエンジニアをしている、3歳年上の32歳。身長は170センチほどの痩せ型で、眼鏡の奥の少し垂れがちな一重瞼の目が好きだった。
性格は真面目で誠実。少し頼りないところはあるものの、真子の知る限り、誰よりも優しい男だ。
「え…」
真子は驚きのあまり、一瞬言葉を失ってしまった。
普段は和食派の圭一が、今日は珍しく表参道に新しくできたフレンチレストラン『レヴォル』を予約したから、と言った時は、「何かあるのかな」と思っていた。けれど、まさかプロポーズだったなんて…。
(※『レヴォル』は、現在閉店しております。)
「だ…、ダメかな?」
驚きを隠し切れていない真子に、圭一は少し不安そうに問いかける。そしてその時、「あっ」と思い出したように紙袋からバラの花束を取り出し、真子に差し出した。
「これ…108本もないけど…」
表参道に新しくできたレストランに、真子の好きなスプレーバラが散りばめられた花束。
きっと圭一なりに、真子が喜ぶように一生懸命考えてくれたのだろう。けれど紙袋から慌てて花束を出すあたりが、なんとも彼らしい。
その心のこもったプロポーズに、普段は冷静な真子も珍しく心を揺さぶられている。そして何より、穏やかな圭一との未来を待ち望んでいる自分がいることに気づき、ホッとしたのだった。
「…よろしくお願いします」
その返事を聞いた圭一は、みるみる表情を緩ませ、「本当!?良かった!」と心底安堵しているようだった。
少年のように素直な反応をする彼を見て、真子の心はじんわりと温かくなった。
…しかしバラの花束を受け取った瞬間、その懐かしい香りに、心の奥にしまってあったある思い出が、どっと溢れ出した。
【二人の間で揺れる花嫁】の記事一覧
おすすめ記事
2017.08.10
寿退社したものの
寿退社したものの:憧れの専業主婦ライフ。華やかな生活を捨ててまで得た「安定」の現実
2016.04.16
上京女子ストーリー
上京は、夢を叶えるための手段。福岡出身ヘアセット講師の熱い想い
2019.03.29
背徳と狂気に満ちた男女の物語が、本日完結!この週末は一気読みで楽しもう!
2021.09.23
籠のなかの妻
籠のなかの妻:年収900万の32歳妻が、退職に追い込まれた驚きの理由
2024.03.09
報われない男
「離婚したくない」一週間ぶりに家に帰ってきた夫から、まさかの告白。妻は…
2022.10.04
男女上京ヒストリー~12年目の悲哀~
30歳の誕生日に彼とディナーを楽しんでいたら…。女が唖然としてしまった、まさかのハプニングとは
2017.07.25
港区内格差
いよいよ明日で最終話!「港区内格差」全話総集編
2019.04.08
サヨナラH
「毎日シャンパン、移動はヘリコプター」。熱狂的な16年前の六本木で、幸せを掴んだ女と消えた女の分岐点
2016.01.17
東京札幌物語
東京札幌物語:北海道出身の希(23歳)の上京ストーリーが始まる。
2018.10.14
オトナの恋愛論~解説編~
男は年収でも顔でもない!?どんなに肩書きがよくても、最終的に女から除外されてしまう男の特徴
東京カレンダーショッピング
『佐藤養助商店』:門外不出の技による、喉ごし滑らかな"稲庭干饂飩"
『かに物語』:ふっくらと肉厚な一本爪が2本入ったフレンチカレー
『西岡養鰻』:特製タレ付き!脂の乗った高品質な鰻を土佐備長炭で丁寧に焼き上げた蒲焼
『マルヒラ川村水産』:ご飯に載せて贅沢いくら丼!1粒1粒に旨みが凝縮された、とろける食感の北海道函館産天然いくら
『North Farm Stock』:北海道産ミニトマト使用!糖度が高く、コクとうまみがたっぷり詰まったトマトジュース
『ル・ボヌール 芦屋』:フリーズドライフルーツにホワイトチョコがたっぷりと染み込んだ新感覚スイーツ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"