住んでいるだけじゃダメなの?麻布十番在住の代理店マンが陥った十番の落とし穴って?

私と友人は、顔に出てしまっていたのだろう。慌ててトオルさんがフォローに入る。

「お前…。それでも十番在住の人間か? お姉様方を目の前によくそんな店を提案できるな。もういい、俺の知っている店へ行こう」

そう言ってトオルさんが連れて行ってくれたのは二軒目の定番である『月光浴』だった。

ピーコックの近くにある十番住民の憩いのバー『月光浴』。フレッシュフルーツのカクテルやワインの種類が豊富で、男女共にファンが多い


その帰り道、タクシーに揺られながら昔住んでいた3年間を思い出していた。

あの時、私は毎晩この界隈で遊んでいた。

十番とは不思議な街で、一度ここに住み、そしてこの縄張りで遊び始めると浮気ができなくなる。他の場所へ出かける欲が失せてしまうのだ。

当時、私には大好きだった15歳も年上の彼がおり、彼がこの街の全て教えてくれた。

私は住所で言うと南麻布一丁目、二の橋を少し奥へ行ったマンションに住んでおり、彼は元麻布だった。

大学を出てから上京し、社会人になって間もない24歳の私にとって、十番という街はとても眩しかった。

憧れの有名レストランや、一本裏道にひっそりと佇むオシャレな店やBarの数々。そんな店には、芸能人が不意に現れたりする。外国の方も多く、ハイソでインターナショナルな雰囲気が漂う。

その一方で、商店街に代表されるような古き良き情景と人情味溢れる一面も持っている。

24歳の玲奈。ちょっと背伸びをした、麻布十番の思い出


そんな東京の憧れを凝縮した部分と、下町情緒を残すこの不思議な街に、私はすぐ惹かれていった。

「玲奈、十番の粋な遊び方を知っているか?」

当時の彼のセリフが、不意に頭をよぎる。

アパレル経営者、東京で成功を収めて十番を愛していた男。彼の行動範囲は、常に十番が中心だった。

週末の夕方は、立ち飲み屋やワインバーで軽く一杯飲んでからディナーへ出かけること。

表通りではなく、一本裏道に十番の真髄があること。ひとつでもいいから、顔馴染みの店を持つこと…。

彼が実践して教えてくれた“十番のイロハ”は、今も私の胸に残っている。

「玲奈の服装、十番らしくないよ」

ある日、彼から指摘されたこの言葉で私はハッと目が覚めたことがあった。六本木から目と鼻の先なのに、この街ではバリバリの戦闘服は浮いてしまう。

ドレスアップすることも良いけれど、自然体でもいいと教えてくれたのは、彼だったのだろうか。それとも、この街だったのだろうか…。

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