エビージョの恋 Vol.2

エビージョの恋:「この人を好きになれたら、幸せなのに」誠実な男を選べず、不毛な恋を貫く女の闇

“この瞬間”だけの幸せ


恵比寿駅から広尾方面にタクシーで3分ほど走ったところに、『Ode』はある。昨年9月にオープンしたばかりの、今最も注目度の高い次世代フレンチレストランだ。

オープンした当時、志乃が「行きたい」と言っていたのを、浩一はずっと覚えていたのだろう。

負い目のある既婚男は、女の機嫌をとるのに必死だった。


別々に会社を出た二人は、たった今久しぶりに顔を合わせたかのように席に着いた。

昼間は素知らぬ顔で仕事に励んでいた浩一の横顔を、志乃はうっとりと眺める。

濃紺のスーツに、糊のきいたシャツ。時計とカフスは一見シンプルだが、きちんと高級感が備わっている。

「このお店に浩一さんと来れて、嬉しいな」

シャツから伸びる浩一の手を、ぎゅっと握る。35歳の、働き盛りの男の手。

「今日は素直だね。志乃の機嫌が直って、俺も嬉しいよ」

―別れるのは、今日じゃないー

お馴染みの呪文を頭の中で繰り返し、志乃は“今この瞬間”に集中した。

メニューは緻密に構成された11皿のお任せコースだった。五感を刺激する一皿一皿をゆっくりと味わいながら、食事のあとには激しく身体を重ねるであろう恋人と熱く視線を絡める。

二子玉川の一軒家で子育てに励む女には絶対に手が届かない、男女の甘く艶かしい贅沢な時間。

愛する男の家庭事情さえ無視し、この時間だけを切り取ったならば、志乃は間違いなく幸せなのだ。

「やっぱり、結婚ていいわ」


「あのね、よっくんと結婚することになったの」

理恵子からそのニュースを知らされたとき、志乃は唖然とした。

彼女は志乃と同じく恵比寿在住で、10年近くもダラダラと関係を続けてきた大学の同級生がいた。

彼の浮気性はほとんど病的なもので、結婚の気配などまるで無かった。だが、理恵子が妊娠3ヶ月という事実が判明して事情が変わったという。

「私ね、これは神様の思し召しだと思うの。よっくん、妊娠が分かってから本当に変わったの」

おっとりと目を輝かせる妊婦の運命論を、志乃は努めて冷静に聞こうとする。

あれだけ理恵子を泣かした男がそう簡単に変わるわけないとか、志乃だけが一人取り残されたとか、そんな陰湿で惨めな感情に心を侵されないように必死に耐える。

「そう、本当によかったね。おめでとう」

だが妊婦は、志乃の葛藤などつゆ知らず、信じられない言葉を口にした。

「やっぱり結婚っていいわぁ!気持ちもすごく安定する。志乃も浩一さんなんかと別れて、いい人見つけなよ」

結婚が決まった女というのは、なんと残酷な生き物だろう。その瞳に浮かぶ優越感を見るのが恐くて、咄嗟に目を逸らす。

どうにか曖昧に返事をしたものの、志乃は親友であるはずの女を、心から憎いと思った。

この記事へのコメント

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No Name
母の教えですが「自殺しない、不倫しない、AVのナンパについていかない」ですよ志乃ちゃん、、!
2018/03/31 05:3399+返信6件
不倫ばっかり‼️
不倫賛美はやめてほしいぞ。

奥様側から訴えられて、金銭的にも社会的地位も失って地獄に落ちろー

たまには現実的で法的制裁になる展開にしておくれ
2018/03/31 07:0499+返信5件
No Name
不倫って…。

みじめだよね…。
痛いよね…。
安上がりだよね…。
かわいそうだよね…。

風俗代わりに恋愛してるだけ。
不倫相手との未来なんて考えてないから
居心地いいだけ。離婚するは絶対嘘。

男が大切にしてるものは、子供と家族の
将来だよ。してる人がいたら、目を覚まして!
2018/03/31 07:2693返信3件
No Name
会社のおじさんとの浮気じゃなきゃ嫌って、本当にどうかしてる!
若い青年の方がどうかんがえても良さそう!浮気してる女性の本能とか、当てにならない。
2018/03/31 05:1883返信3件
No Name
典型的な不倫パターンですね。
この、浩一は絶対に離婚しないよ。
お店や旅行に釣られてダラダラと続けている場合じゃないと思うけどな。
2018/03/31 07:0483返信1件
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