東京には、結婚したことを後悔する者はいても、離婚したことを後悔する者はいない。
3組にひと組が離婚すると言われている現代。
すなわち、バツイチ人口が増えているということでもある。
それに伴ってか、「バツイチはモテる」と囁く男女は多いが、果たしてその実態とは?
1年前からバツイチとなった藤本直人(42歳)。彼の私生活に迫り、バツイチ男の恋愛事情をお届けしよう。
前回は14歳年下美女と、それまでで一番長い夜を過ごした藤本。さて、今回は…?
「あれ?藤本さん、今夜は早いですね」
藤本の顔を見るなり、バーテンダーの田崎はグラスを磨く手を止めた。
「うん、たまたまね。いつもの、ウィスキーちょうだい」
カウンターのいつもの席に座りながら藤本が言うと、田崎は「かしこまりました」と言って温かいおしぼりを藤本に差し出す。
藤本は手を拭きながら、不自然にならないよう店内をぐるりと見渡した。
—今日も、いないか。
そんなことを思って少しがっかりしている自分に気づき、藤本は自嘲気味に笑った。
「どうかされましたか?」
田崎に聞かれて、藤本は「いや、なんでもないよ」と短く答える。
ここは、藤本が週に2回は通っているバー。愛宕の自宅からタクシーで5分ほどの場所にあり、離婚して一人暮らしを始めた頃から通い始めた。
シックで落ち着いた店内には小さく絞られたボリュームでジャズが流れており、そう広くはないがカウンターの他にソファ席もあり、なかなか居心地の良い店だ。
この店でウィスキーを1〜2杯飲むと、仕事の緊張感から解放されてリラックスできるため、会食の後に一人で立ち寄ることも多い。
だが最近は、藤本がこの店に来る理由はそれだけではなかった。
いつの頃からかこの店に来ると、ある一人の女性の姿を探すようになっていたのだ。
彼女の名は、綾子。
とても綺麗な声で話す女性だ。