2017.12.24
港区女子は言う。「銀座は遠い」と。物理的な距離はおそらく5キロもなく、タクシーでも3000円以下。
にも関わらず、彼女たちの中では銀座に行くことを“遠征”と呼ぶほどだ。
今回は、とある港区女子の銀座遠征の様子を追った。彼女はどんなお店に行くのか。なぜ、そこまで銀座を遠く感じるのか。
彼女の心情を追ってみよう。
あれ、こんな銀座ならイイかも……。銀座のモダンなレストランって、意外
最後に銀座に行ったのは、確か3年ほど前だ。知り合いのおじさんに誘われ、某高級ブランドのオープニングパーティーに行った。その時の視線をいまでも覚えている。
煌びやかな年上の女性たちは私を好奇の目で舐め回す。その空気に耐え切れず、私は咄嗟に会場を後にした。
以来、銀座は完全にアウェイとなった。物理的な距離以上に遠く、港区仲間の間では〝遠征〞と呼ばれている。
古い価値観を街全体が押しつけているようで、好きになれなかった。
「乗って。ちょっと遠征しようか」
「銀座には行かない」と話したばかりのおじさんから提案があった。その挑戦するような態度が面白くて、誘いに乗った。
12月の銀座は煌びやかだった。一流ブランドのイルミネーションは圧巻で、道行く人たちは皆洗練されている。自然に背筋がピンと張った。
1丁目の路地。ビルの2階にあったのは『ドミニク・ブシェ トーキョー』だ。
店内はまるでシェフの邸宅を思わせるセンスよく温かな空間。壁も椅子も凛としたスタッフもすべてが上質。クラシックとは無縁の雰囲気。銀座らしくない、と思った。
案内された個室にはシェフズテーブル。目、耳、舌にも楽しいフレンチは、ただただ私を幸せにした。サービスも一流。銀座が私を許容してくれている。しかも「いい女」として。
食事が終わり、再び中央通りに出ると、街は一転、静けさに包まれていた。港区に戻ろう、というおじさんの提案に対して、私は、まだこの街の空気に触れていたい、と思った。
「もう一軒、連れて行ってもらえませんか?」
おじさんが嬉しそうにタクシーを拾い、「資生堂ビルへ」と言う。11階でエレベーターが開くと、圧倒的な空間があった。
天井は一流ホテルのロビーのように高く、店内のアートはエッジが効いている。資生堂が大人の夜の遊び場をもっているなんて、知らなかった。
大人が本気で遊ぶ、ってこういうことか。スケールの大きさに感動
おじさんに薦められるままに、私は2種類のベリーのカクテルを飲んだ。果実の香りが胃の中で広がっていく。単に飲みやすいと言うのは失礼に感じる、本物のカクテルだ。
頭上には、カクテルと同じ色をした巨大なアートがあった。〝銀座の太陽〞を意味しているという。夜の太陽が私たちを照らしている。
なんて、エスプリが効いているのだろう。お遊びや茶目っ気のスケールがいちいち大きい。
2杯目を飲み終わったころ、お手洗いに立った。そこで鏡に映った自分の顔は、いつもより少し大人に見えた。この街の空気感がそう見せているのかな。
「どう? 銀座の夜は?」
席に戻ると、おじさんはウイスキーをひと口飲んだあとそう聞いた。
「素敵ですね」
そう言って、私はもう1杯カクテルをねだった。
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